健康情報の「不安を煽る」表現、その真偽をどう見抜くか
インターネットやSNSでは日々様々な健康情報が発信されています。中には、読者の関心を引きつけたり、特定の行動を促したりするために、意図的に不安を煽るような表現が使われている情報も見受けられます。これらの情報に惑わされず、その真偽を冷静に見抜くことは、正確な健康情報を得る上で非常に重要です。
なぜ健康情報で「不安を煽る」表現が使われるのか
不安は人の注意を引きつけやすく、特定の情報に対する関心を高める効果があります。「このままだと危険」「あなたの体は実は問題が隠れている」といった表現は、多くの人にとって無視できないものに感じられます。この心理的な効果を利用し、情報の拡散を狙ったり、特定の製品やサービスへの誘導を図ったりするケースがあります。
しかし、科学的な根拠が乏しいにも関わらず、過度な不安を煽る情報は、不要な心配を引き起こしたり、誤った判断に基づいた行動につながったりする危険性があります。
不安を煽る健康情報の典型的なパターン
不安を煽る健康情報には、いくつかの典型的なパターンがあります。
- 危機感を過剰に強調する: 「これをしないと大変な病気になる」「放置すると手遅れになる」など、特定の状態や行動の危険性を必要以上に強調します。
- 特定の原因を断定する: 「〇〇がすべての病気の原因だ」「たった一つの原因を取り除けば解決する」など、健康問題の複雑な原因を単純化し、特定の要素に結びつけます。
- 権威を詐称・誇張する: 「世界の研究で明らかになった」「医師も知らない真実」など、情報の信頼性を高めるために、根拠なく権威付けを行います。
- 「隠された真実」を謳う: 「メディアが報じない」「製薬会社が隠している」など、陰謀論的な要素を交え、情報の特別性や緊急性を強調します。
- 解決策を限定する: 「この方法以外に助かる道はない」「この製品だけが効果がある」など、提示する解決策への誘導を強く行います。
これらの表現に触れた際は、一度立ち止まって冷静に情報の内容を吟味することが大切です。
不安を煽る情報を見抜くための具体的なチェックポイント
不安を煽る表現を含む情報に接した際に、その真偽を判断するための具体的なチェックポイントを以下に示します。
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情報源の信頼性を確認する:
- その情報は誰が発信していますか? 個人ブログ、企業の広告、公的機関、研究機関、医療機関など、発信源によって信頼性は大きく異なります。
- 特に、特定の個人や団体が強く推奨している場合、その背景(営利目的など)を確認することが重要です。
- 信頼できる情報源としては、厚生労働省、国立研究開発法人 国立がん研究センター、国立国際医療研究センターなどの公的機関、大学や研究機関の公式サイト、信頼できる医療機関のサイトなどが挙げられます。
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科学的根拠の有無と質を評価する:
- その情報の根拠として、どのような研究やデータが示されていますか?
- 「研究で明らかになった」とだけ書かれていても、その研究がどのようなものか(実験室レベルか、人を対象とした臨床試験か、参加者数、研究デザインなど)が不明な場合は注意が必要です。
- 査読済みの医学論文や信頼できる大規模な研究の結果に基づいているかを確認します。個人的な体験談や伝聞、少数の事例のみを根拠としている情報は、科学的根拠としては不十分です。
- 「〇〇が体に良い」といった情報であれば、それがどのようなメカニズムで効果を発揮するのか、科学的に説明されているかを確認します。
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論調や言葉遣いを評価する:
- 表現が感情的すぎないか、断定的すぎないかを確認します。「絶対」「必ず」「劇的に」といった極端な言葉や、読者の恐怖心を煽るような大げさな表現が多い場合は注意が必要です。
- 冷静かつ客観的なトーンで、可能性や限界についても触れている情報の方が信頼性は高いと言えます。
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他の情報源との比較検討を行う:
- 同じテーマについて、複数の信頼できる情報源(公的機関、複数の医療専門家の意見など)を調べてみてください。
- 不安を煽る情報だけが極端な主張をしている場合、その情報の信頼性は低いと考えられます。
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提示される解決策を評価する:
- 不安を煽った上で、特定の製品の購入や、高額なサービスの利用、極端な食事制限や運動など、一つの限定的な解決策を強く推奨している場合は、営利目的である可能性が高いです。
- 医療に関する問題であれば、まずは信頼できる医療機関に相談することが最も推奨されるべき対応です。
不安を感じている他者への情報提供のヒント
インターネット上の不安を煽る情報に触れて心配されている方(患者さんやご家族など)に対して、正確な情報を伝える際には、いくつかの配慮が必要です。
- まずは相手の不安に寄り添う: 情報の真偽を論じる前に、「ご心配なのですね」など、相手の気持ちを受け止める姿勢を示すことが大切です。
- 感情的にならず、冷静に伝える: 「それは間違いだ」と一方的に否定するのではなく、「こういう情報もありますよ」「公的な機関ではこのように説明されています」と、他の信頼できる情報を提示する形で伝えます。
- 根拠を示す: なぜその情報が信頼できるのか、あるいはなぜ注意が必要なのか、情報源や科学的根拠に基づいて具体的に説明します。
- 専門家への相談を促す: 自己判断や不確かな情報に基づく行動を避け、医師や薬剤師、管理栄養士など、専門家へ相談することを勧めます。
結論:冷静な情報判断が健康を守る第一歩
健康に関する不安は誰にでも起こり得る自然な感情です。しかし、その感情に付け込むように、過度に不安を煽る情報がインターネット上には存在します。
情報の真偽を見抜くためには、感情的な言葉に惑わされず、常に情報源の信頼性、科学的根拠の有無、そして論調を冷静に評価することが重要です。複数の信頼できる情報源を参照し、客観的な視点を持つことを心がけましょう。
私たち一人ひとりが情報リテラシーを高め、冷静な判断力を身につけることが、誤った情報に惑わされず、自身の健康を守るための重要な鍵となります。不確かな情報に不安を感じた際は、一人で抱え込まず、信頼できる専門家に相談することも検討してください。