身近な人が信じる健康デマ、どう対応する?:科学的根拠に基づく情報提供のポイント
身近な人が信じる健康デマ:なぜ起こるのか、どう対応すべきか
インターネットやSNSの普及により、様々な健康情報が手軽に入手できるようになりました。その中には、科学的根拠に乏しい情報や、明らかな誤情報、いわゆる「健康デマ」も含まれています。問題は、こうしたデマが家族や友人、患者さんなど、身近な人々の間で信じられ、時には健康を損なうような行動につながってしまうことがある点です。
なぜ、身近な人が健康デマを信じてしまうのでしょうか。そして、私たちはその状況にどう対応すべきでしょうか。感情的な対立を避けつつ、科学的根拠に基づいた正確な情報を伝えるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
なぜ健康デマは身近な人に広がりやすいのか
健康デマが身近な関係性の中で広がりやすい背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、デマはしばしば、人の不安や希望に巧みに働きかけます。「これで病気が治る」「簡単に痩せられる」「特定の食品が万病に効く」といった、手軽さや即効性、あるいは「奇跡」を思わせるような魅力的な言葉で語られることが多いからです。
次に、身近な人からの情報は、専門家やメディアからの情報よりも心理的なハードルが低く、信頼しやすいと感じる傾向があります。日頃からの信頼関係があるため、「あの人が言うならきっと正しいだろう」と思い込んでしまうことがあります。
さらに、インターネット上の情報の特性も影響します。興味を持った情報に関連する情報ばかりが目に触れる「フィルターバブル」や、自分と同じ意見を持つ人々の間で情報が強化される「エコーチェンバー」といった現象は、特定の健康デマを信じ込む土壌を作り出します。
デマを見抜くための基本的なチェックポイントの再確認
身近な人が信じている情報が本当にデマなのかどうかを判断するために、まずは私たち自身が情報の真偽を見抜くための基本的なチェックポイントを冷静に適用することが重要です。
- 情報源の信頼性: その情報は誰が発信していますか。公的機関(厚生労働省、国立健康・栄養研究所など)、信頼できる医療機関や研究機関、専門家(医師、薬剤師、管理栄養士など)でしょうか。匿名の個人ブログや、情報源が不明確なSNSの投稿などは注意が必要です。
- 科学的根拠の有無: その主張を裏付ける科学的な証拠は提示されていますか。「個人の体験談」「〇〇さんの成功例」は科学的根拠とは異なります。ヒトを対象とした質の高い臨床研究に基づいているか、専門家による査読を経た論文で発表されているか、といった視点が重要です。エビデンスレベルについても理解しておくと役立ちます。
- 内容の極端さや断定的な表現: 「〜だけで完治」「絶対安全」「これをしないと手遅れ」といった極端な主張や、メリットだけを強調しデメリットやリスクに一切触れない情報は警戒すべきです。
- 商業的な意図: 特定の商品やサービスへの誘導はありませんか。「今だけ」「限定」といった購入を煽る表現や、商品の販売サイトへのリンクが含まれている場合は、その情報が公平性を欠いている可能性があります。
相手に正確な情報を伝える際の具体的なポイント
身近な人が信じる健康デマに対して、感情的に「それは間違いだ」と頭ごなしに否定するだけでは、かえって反発を招き、耳を傾けてもらえなくなる可能性が高いです。正確な情報を伝えるためには、相手への配慮を忘れず、丁寧なコミュニケーションを心がける必要があります。
1. まずは共感と傾聴から始める
相手がなぜその情報を信じているのか、その背景にはどのような不安や悩みがあるのかを理解しようと努めてください。一方的に正論をぶつけるのではなく、「〇〇について心配なんですね」「△△を試してみたい気持ち、分かります」といった共感の姿勢を示すことで、相手は心を開きやすくなります。相手の話を最後まで聞き、相手がどこから情報を得たのか、なぜそれを信頼したのかを尋ねることも有効です。
2. 否定ではなく疑問を投げかける
デマの内容を直接的に「嘘だ」「間違いだ」と否定するのではなく、「この情報、どこで見つけたんですか?」「これって、他にどんな情報があるんでしょうね?」「こういう場合、専門家はどう言っているんでしょう?」といった疑問形で問いかけることで、相手自身が情報の信頼性について考えるきっかけを与えることができます。
3. 信頼できる情報源を具体的に示す
「ネットに書いてあったから」という曖昧な情報に対して、信頼性の高い情報源(例:厚生労働省の公式サイト、国立がん研究センターの情報ページ、特定の学会が監修する疾患情報サイトなど)を具体的に提示してください。そして、「こういう公的な機関や専門家は、このように言っています」と、情報の発信元の違いを分かりやすく説明します。
4. 平易な言葉で、分かりやすく説明する
専門用語を避け、相手が理解できる言葉を選んで説明してください。複雑なメカニズムであれば、簡単な例え話を用いるなど、視覚的に分かりやすい方法を検討するのも良いでしょう。説明する際は、メリットだけでなく、リスクや注意点も公平に伝えることが、情報の全体像を理解してもらう上で重要です。
5. 一度で伝わらなくても根気強く
長年信じてきた情報や、感情的に強く結びついた情報は、簡単には覆りません。一度の説明で納得が得られなくても当然だと考え、繰り返し、しかし押し付けがましくなく、機会を見て正確な情報を提示していく姿勢が大切です。関係性を損なわないことを最優先に考えてください。
6. 専門家の受診を促す
もしそのデマが健康に重大な影響を及ぼす可能性がある場合や、相手の不安が非常に強い場合は、「心配なら一度お医者さんに相談してみませんか?」「専門家にも意見を聞いてみるのが安心ですよ」といった形で、医療専門家の受診を穏やかに促すことも重要な対応策です。
まとめ:デマへの対応は「情報の押し付け」ではなく「サポート」
身近な人が健康デマを信じている状況への対応は、非常にデリケートで難しいものです。しかし、感情的に否定するのではなく、相手の立場や気持ちを尊重し、共感を示しながら、科学的根拠に基づいた正確な情報を提供しようと努めることは、相手の健康を守る上で非常に価値のある行動です。
大切なのは、デマを信じる相手を一方的に否定するのではなく、「より正確な情報を得るためのサポートをしたい」という姿勢を持つことです。自身の情報リテラシーを高め続け、冷静かつ丁寧なコミュニケーションを心がけることが、健康デマに惑わされない社会、そして身近な人の健康を守ることにつながります。