異なる情報源からの健康情報、信頼性をどう比較判断するか
インターネットやメディアを通じて日々多くの健康情報に触れる中で、同じテーマについて異なる情報源から、ときには矛盾するように見える情報が得られることがあります。例えば、「ある食品は体に良い」という情報と、「同じ食品にはリスクがある」という情報が同時に存在する場合などです。このような状況で、どの情報を信頼し、どのように判断すれば良いのか迷うこともあるでしょう。
健康に関する情報は、私たちの健康管理や大切な人へのアドバイスに直結するため、その真偽を見極めることは非常に重要です。特に、複数の情報源がある中で、それぞれの信頼性を比較し、より確かな情報に基づいて判断する能力は、情報過多の時代において不可欠と言えます。
この記事では、なぜ情報源によって健康情報の内容が異なることがあるのかを理解し、複数の情報源を比較検討しながら信頼性を判断するための具体的なチェックポイントについて解説します。
なぜ情報源によって健康情報が異なるのか
同じ健康に関するテーマであっても、情報源によって伝えられる内容やニュアンスが異なることには、いくつかの理由が考えられます。
- 研究の段階や解釈の違い: 健康に関する研究は日々進歩しており、新しい発見や見解が常に生まれています。また、同じ研究結果であっても、その解釈や結論の導き方が異なる場合があります。
- 情報の鮮度: 最新の研究結果に基づいた情報と、少し前の一般的な知識に基づいた情報とでは、内容に違いが生じることがあります。
- 情報の切り取り方と焦点: 発信者の目的や意図によって、情報の特定の側面だけが強調されたり、全体像の一部だけが伝えられたりすることがあります。
- 対象とする集団の違い: ある特定の疾患を持つ人には有効な情報でも、そうでない健康な人には当てはまらないといった、対象の違いがあります。
- 商業的または個人的な意図: 特定の製品やサービスを販売したい、あるいは自身の経験や考えを広めたいといった、発信者の意図が影響している場合があります。
これらの理由により、私たちは複数の情報源からの情報を鵜呑みにせず、その信頼性を慎重に比較検討する必要があります。
異なる情報源の信頼性を比較判断するチェックポイント
複数の情報源から得た健康情報を比較し、その信頼性を判断するためには、以下のような具体的なチェックポイントに基づいて評価することが役立ちます。
1. 情報源の種類と信頼性
情報の信頼性は、その情報がどのような機関や個人から発信されているかによって大きく異なります。
- 公的機関(厚生労働省、国立研究開発法人など): 国や公的な研究機関からの情報は、政策決定や多くの研究に基づいていることが多く、信頼性は比較的高いと考えられます。
- 医療機関・学会: 病院や大学病院、専門分野の学会などが発信する情報は、臨床的な知見や専門家の合意に基づいているため、信頼性が高い情報源と言えます。
- 専門家個人: 医師や管理栄養士、薬剤師など、資格を持った専門家個人の発信する情報も信頼性の目安になりますが、個人の見解や経験に基づく部分もあるため、所属機関や経歴、提示されている根拠を確認することが重要です。
- メディア(新聞、テレビ、雑誌): 大手のメディアは専門家への取材や編集を経ていることが多いですが、情報の速報性やエンターテイメント性が重視される場合もあります。科学的根拠が十分に示されているか、特定の意見に偏っていないかなどを確認する必要があります。
- 企業: 製薬会社や食品メーカーなどが発信する情報は、製品に関する正確な情報を含む一方で、自社製品に有利な情報が強調される可能性があることに留意が必要です。
- 個人ブログ・SNS: 個人の体験談や意見が中心となります。多様な視点を知るには役立ちますが、科学的根拠に基づかない情報や誤情報が多く含まれる可能性があるため、情報の真偽判断には極めて慎重な姿勢が必要です。
異なる情報源を比較する際には、まずそれぞれの情報源が上記のどのカテゴリーに属するかを確認し、その特性を踏まえて評価を開始します。
2. 提示されている根拠のレベル
情報源がどのような根拠に基づいてその主張をしているかを比較します。科学的な根拠には様々なレベルがあり、一般的にエビデンスレベルが高いとされる情報源ほど信頼性が高いと考えられます。
- 信頼性が高いとされる根拠:
- 複数の質の高い研究結果(特にメタ分析やシステマティックレビュー)に基づいたもの
- 大規模なランダム化比較試験(RCT)の結果
- 専門家組織による診療ガイドラインや声明
- 信頼性に注意が必要な根拠:
- 動物実験や基礎研究の結果(人間にそのまま当てはまるとは限らない)
- 小規模な研究や予備的な研究結果
- 専門家個人の意見や経験(エビデンスに基づかない場合)
- 個人の体験談や口コミ
複数の情報源を比較する際は、それぞれの主張がどのような根拠に基づいているか、そしてその根拠のレベルはどの程度かを評価します。「〇〇研究によると」「専門家の△△氏が言っています」といった表面的な情報だけでなく、具体的にどのような研究で、どのような結果が得られたのか、あるいはその専門家がどのような根拠に基づいてそう述べているのかを確認しようとすることが重要です。情報源によっては、根拠となる論文やデータが明記されている場合もあります。
3. 情報の客観性と網羅性
信頼できる情報は、特定の立場や意見に偏らず、客観的である傾向があります。また、メリットだけでなく、デメリット、リスク、限界など、関連する情報を網羅的に提供しています。
- チェックポイント:
- 一方的に特定の効果だけを強調していないか。
- リスクや副作用、注意点についても触れられているか。
- 他の可能性や選択肢を排除するような断定的な表現が多くないか。
- 「〇〇だけで完治」「誰でも簡単に痩せる」といった誇大広告のような表現がないか。
複数の情報源を比較する際に、一方の情報源がメリットだけを強調し、もう一方がデメリットに焦点を当てているといった場合があります。このような時は、両方の情報源の主張を鵜呑みにせず、それぞれの情報がどのような根拠に基づいているかを深く掘り下げて確認し、よりバランスの取れた情報を探すように努めます。
4. 情報の引用・出典の明確さ
信頼性の高い情報源は、その情報の元となる出典(研究論文、統計データ、公的機関の発表など)を明確に示しています。これにより、読者は元の情報を辿って、情報の正確性や文脈を確認することができます。
- チェックポイント:
- 情報の根拠となる研究やデータ、参考文献などが具体的に示されているか。
- 示されている出典は、信頼できる情報源(学術誌、公的機関のウェブサイトなど)か。
- 元の情報を確認することで、提示されている情報が正確に引用されているか、文脈から切り取られていないかなどを判断できます。
複数の情報源で同じ研究やデータが引用されている場合でも、その解釈や強調の仕方が異なることがあります。出典が明記されていれば、元の情報を確認することで、どちらの情報源の解釈がより適切かを判断する手助けとなります。
誤った情報を他者に説明する際のポイント
複数の情報源を比較検討し、より信頼できる情報に基づいて判断できたとして、次にその情報を他者(例えば、ご家族や患者さんなど)に伝える場面があるかもしれません。特に、相手が誤った情報を信じている場合、どのように伝えれば理解してもらえるかは難しい課題です。
- なぜその情報が異なるのか、理由を説明する: 単に「それは間違っている」と否定するのではなく、「なぜ情報源によって内容が違うのか」「この情報源はどのような根拠に基づいているのか」といった、情報の背景や信頼性判断の過程を丁寧に説明します。
- 信頼できる情報源を具体的に示す: 公的機関や医療機関など、相手にとって受け入れやすい、客観的で信頼性の高い情報源を示すことが有効です。「〇〇省のウェブサイトにはこのように記載されています」「〇〇病院の資料では、こう説明されています」といった具体的な提示は、相手の理解を助けます。
- 相手の不安や疑問に寄り添う: 相手がその情報を信じるに至った背景には、不安や特定の期待があるかもしれません。まずは相手の言葉に耳を傾け、感情的な側面にも配慮しながら、落ち着いたトーンで話を進めます。
- 断定的な表現を避ける: 「絶対に〇〇だ」といった断定的な表現は、かえって相手の反発を招く可能性があります。「現時点では、このような研究結果が多く報告されています」「一般的には、〇〇と考えられています」など、科学的な知見に基づいた、より慎重な表現を心がけます。
- 完璧な情報を求めすぎない姿勢も大切: 健康情報は常に更新されており、現時点で最も確からしい情報が、将来的に修正されることもあります。完璧な情報を求めるのではなく、「現時点で最も信頼性が高いと考えられる情報に基づいて判断することが重要である」という考え方を伝えることも有効です。
他者に伝える際には、相手の知識レベルや関心、状況に合わせて、分かりやすい言葉を選び、専門用語の使用は避けたり、丁寧に補足説明を加えたりすることが大切です。
まとめ
インターネットをはじめとする様々なメディアから得られる健康情報は、私たちの健康を守る上で非常に有用である反面、その中には誤った情報や古い情報、偏った情報が含まれている可能性があります。特に、同じテーマについて異なる情報源から contradicting な情報に触れた際は、今回ご紹介したようなチェックポイントを活用し、それぞれの情報源の信頼性や根拠のレベル、情報の客観性などを比較検討することが重要です。
情報の真偽を主体的に判断する能力は、自分自身の健康管理だけでなく、大切な人をデマや誤情報から守るためにも役立ちます。信頼できる情報源を見分け、複数の情報を比較検討する習慣を身につけることで、より確かで安全な情報に基づいて、賢明な選択ができるようになるでしょう。