「〇〇博士が発見!」「専門家も推奨」健康情報の信頼性をどう見極めるか
インターネット上には様々な健康情報があふれています。その中には、「〇〇博士が発見した」「専門家も推奨している」といった、発信者の肩書きや権威を強調する情報が多く見られます。私たちは、権威ある人物や専門家の言葉を聞くと、つい信頼してしまう傾向があります。しかし、残念ながら、こうした肩書きや権威が、必ずしも情報の正確性や信頼性を保証するものではありません。時には、誤った情報やデマを信じ込ませるために、意図的に悪用されることもあります。
ここでは、「〇〇博士が発見した」「専門家も推奨」といった健康情報の信頼性を正しく見極めるための具体的なチェックポイントと、もし周囲の方がそのような情報に惑わされている場合にどのように説明すれば良いかについて解説します。
なぜ肩書きや権威が悪用されやすいのか
私たちは、複雑な健康や医療に関する情報を全て自分で判断することが難しいと感じることがあります。そのような時に、専門家や権威と見なされる人物の意見は、判断の拠り所となりやすいものです。特に、テレビやインターネットで「〇〇博士」や「権威」として紹介されると、その言葉には重みがあるように感じられます。
しかし、この「信頼されやすい」という性質が、誤った情報の発信者にとって都合の良い点となります。曖昧な肩書きを名乗ったり、存在しない研究機関に所属していると偽ったりすることで、情報の受け手に対して不当な信頼感を与え、その後の誤った主張を受け入れやすくしてしまうのです。
権威を悪用した健康情報の典型的なパターン
権威を装った健康情報には、いくつかの典型的なパターンが見られます。これらのパターンを知っておくことで、情報を冷静に評価する助けとなります。
- 曖昧または過剰な肩書き: 「健康の専門家」「代替医療の権威」「秘密の治療法発見者」など、具体性に欠ける、あるいは実態を伴わない大げさな肩書きが使われることがあります。
- 所属機関の不明確さ: 所属しているとされる機関名が明記されていない、あるいは検索しても実態が確認できないケースがあります。中には、実在する機関と紛らわしい名称を用いることもあります。
- 特定の研究者名だけが強調される: 特定の個人の「発見」や「研究」が過度に強調されますが、その研究内容、発表された場所(学術誌など)、論文番号といった具体的な情報が提示されないことがあります。
- 「匿名」や「秘密」を強調: 「本物の専門家は表に出られない」「政府や既存の医療業界が隠している」といった、情報の透明性を意図的に低くする表現が使われます。
- 特定の製品やサービスへの誘導: 最終的に、その「専門家」が推奨する特定の健康食品、サプリメント、医療機器、治療法、あるいはセミナーなどへの購入や参加を強く勧める形になっていることが多いです。
- 都合の良い側面だけを強調: 専門家の意見の一部だけを切り取ったり、本来の文脈から外れた形で紹介したりして、特定の主張を補強するために利用されます。
信頼性を見分ける具体的なチェックポイント
「〇〇博士」「専門家推奨」といった情報に接した際に、その信頼性を判断するために確認すべき具体的なポイントを以下に示します。
- 発信者の特定と確認:
- その「〇〇博士」や「専門家」の氏名、正式な所属機関(大学、病院、研究機関など)、具体的な専門分野、そして取得している資格(医師免許、管理栄養士など)は明確に示されているでしょうか。
- 示されている氏名や所属機関は、インターネット検索や公的なデータベースなどで実在が確認できるでしょうか。特に所属機関の公式サイトなどで、本当にその人物が在籍しているかを確認することは重要です。
- 海外の専門家を名乗る場合、その人物や所属機関の信頼性を確認するための情報は提供されているでしょうか。
- 肩書きと情報内容の一致:
- その人物の専門分野は、発信している健康情報の内容と関連性が高いでしょうか。例えば、文学博士ががん治療の専門的な情報を語っている場合、その情報の信頼性については慎重になるべきです。
- 情報源の確認:
- その「発見」や「推奨」の根拠は何でしょうか。専門家自身の意見だけでなく、具体的な研究論文、統計データ、公的なガイドラインなどが根拠として示されているでしょうか。
- 示されている根拠(論文など)は、信頼できる学術誌に掲載されているか、研究機関や公的機関から発表されているものかを確認します。研究の規模や質(例えば、人を対象とした大規模な研究か、細胞レベルの小規模な研究かなど)についても可能な範囲で確認することが望ましいです(これは「健康情報における『研究』の信頼性を見抜く」といったテーマの記事でより詳しく解説される内容と関連します)。
- 複数の信頼できる情報源との比較:
- その「専門家」が主張する内容が、他の複数の、広く信頼されている医療機関、大学、学会、あるいは厚生労働省のような公的機関の情報と一致しているかを確認します。
- 特定の専門家だけが主張しており、他の多くの専門家や公的機関の意見と大きく異なる場合、その情報はまだ確立されていない、あるいは誤っている可能性が高いと考えられます。
- 広告・営利目的の有無:
- その情報が、特定の製品やサービスの販売、あるいは特定の団体への寄付などを目的としている可能性はないでしょうか。「専門家」の意見が、その製品やサービスの宣伝のために利用されていないか、冷静に判断する必要があります。
これらのチェックポイントを一つずつ確認することで、肩書きや権威に惑わされず、情報の信頼性をより客観的に評価することができます。
誤った情報を他者に説明する際のポイント
ご家族やご友人が、「〇〇博士」が推奨しているから、といった理由で誤った健康情報を信じ込んでいる場合、どのように説明すれば良いでしょうか。
- 頭ごなしに否定しない: まずは相手の情報を聞く姿勢を見せ、「なるほど、そういう情報があるのですね」といった形で一度受け止めます。感情的に否定すると、かえって相手は心を閉ざしてしまいます。
- 根拠と論理に焦点を当てる: 「その〇〇博士は、具体的にどこに所属している方なのですか?」「その情報は何に基づいて言われているのでしょうか?根拠となる研究データなどは示されていますか?」といった形で、情報の「発信者」や「根拠」に焦点を当てて、一緒に考えるように促します。
- 信頼できる情報源を示す: 厚生労働省や国立がん研究センター、大学病院などの公式サイトや、信頼できる医療情報サイトなど、「みんなが確認できる、信頼性の高い情報源」を紹介し、「こちらの情報も見てみませんか?」と提案します。特定の製品サイトや個人のブログではない、客観的な情報源を示すことが重要です。
- 選択肢と限界を伝える: 確立された医療情報や科学的知見は、多くの研究を経て得られたものであり、その効果だけでなく、起こりうるリスクや限界(全ての人に効くわけではないなど)も考慮されていることを伝えます。一方、「〇〇博士の秘密の治療法」のような情報には、効果が確認されていないだけでなく、未知のリスクがある可能性についても言及します。
誤った情報を訂正する際には、相手を尊重し、感情的にならず、事実と論理に基づいた丁寧な対話を心がけることが大切です。
まとめ
インターネット上の健康情報において、「〇〇博士が発見した」「専門家も推奨している」といった肩書きや権威は、情報の信頼性を判断する上で重要な要素の一つとなり得ますが、それが全てではありません。時には、情報への信頼性を不当に高めるために悪用されることもあります。
情報の信頼性を正しく見極めるためには、発信者の具体的な身元や専門性、情報の根拠となる科学的知見、そして複数の信頼できる情報源との比較といった多角的な視点を持つことが不可欠です。今回ご紹介したチェックポイントを活用し、肩書きや権威だけに惑わされない、確かな情報選択の力を養うことが、ご自身の健康を守り、また大切な人に正確な情報を伝える上での助けとなるでしょう。情報リテラシーを高めることは、現代社会においてますます重要になっています。