健康情報の広告・プロモーション、信頼性をどう判断するか:その意図と科学的根拠を見抜く視点
健康情報の広告・プロモーション、信頼性をどう判断するか:その意図と科学的根拠を見抜く視点
インターネットやテレビ、雑誌など、様々な媒体で健康に関する情報に触れる機会が多くあります。その中でも、特定の健康食品、サプリメント、機器、サービスなどの購入を目的とした広告やプロモーションは、魅力的な謳い文句で溢れていることがあります。しかし、これらの情報の中には、科学的根拠が乏しかったり、誤解を招く表現が含まれていたりするものも少なくありません。
こうした広告やプロモーションの信頼性を冷静に判断し、誤った情報に惑わされないためには、いくつかの視点を持つことが重要です。本記事では、健康情報の広告・プロモーションを見極めるための具体的なチェックポイントと、その裏にある意図を見抜くための考え方について解説します。
広告・プロモーションに潜む典型的な落とし穴
健康情報の広告やプロモーションは、消費者の関心を引きつけ、商品やサービスに結びつけるために、様々な手法を用います。その中には、情報の信頼性を判断する上で注意が必要なパターンがいくつかあります。
- 個人的な体験談や感想の多用: 「これで劇的に体調が良くなった」「〇〇が改善した」といった個人の体験談は、共感を呼びやすく非常に説得力があるように見えます。しかし、これはあくまで個人の経験であり、万人にあてはまる科学的な効果を示すものではありません。プラセボ効果(信じることで症状が改善したと感じること)の可能性や、個人的な体質、他の要因(食事や生活習慣の変化など)が影響している可能性も考慮する必要があります。
- 著名人やインフルエンサーの起用: 有名な芸能人やインフルエンサーが特定の健康法や商品を推薦しているのを目にすることがあります。彼らがその分野の専門家であるとは限らず、広告契約に基づいている場合が多いです。肩書きや知名度だけで情報の信頼性を判断するのは危険です。
- 都合の良い研究結果の引用: 特定の商品に有利な、限定的な研究結果だけを引用し、全体像や他の研究では否定的な結果が出ている可能性を隠す手法です。「研究で証明済み」と謳われていても、その研究の質や規模、資金源などを確認する必要があります。
- 過剰または断定的な効果・効能の謳い文句: 「飲むだけで病気が治る」「〜だけで簡単に痩せる」「奇跡の成分」といった、極端に効果を強調する表現は警戒が必要です。医学的に認められた治療法ではないにも関わらず、特定の病気に対する治療効果を謳っている場合は、特に注意が必要です。
- 漠然とした不安を煽る手法: 特定の症状や健康状態について漠然とした不安を煽り、「この商品を使えばその不安が解消される」と誘導するパターンです。「あなたは〇〇が足りていないかもしれません」「現代人は△△のリスクが高い」などと示唆し、解決策として自社の商品を提示します。
健康情報の広告・プロモーションの信頼性を判断するチェックポイント
これらの落とし穴を踏まえ、広告やプロモーションとしての健康情報に触れた際に確認すべき具体的なチェックポイントを以下に挙げます。
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発信元・広告主を明確にする:
- その情報が誰によって発信されているか、広告である旨が明記されているかを確認します。
- 企業のウェブサイトであれば、信頼できる企業か、どのような事業を行っているかなどを確認します。怪しい企業や、連絡先が不明瞭な場合は注意が必要です。
- 個人のブログやSNSの場合は、その人がどのような立場の人か、専門家なのかなどを確認します。
- 広告収入や商品販売が主な目的であることを理解した上で情報を評価する必要があります。
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科学的根拠の有無とそのレベルを確認する:
- 主張されている効果や効能に対して、具体的な科学的根拠が示されているかを確認します。「研究により」といった漠然とした表現ではなく、具体的な研究機関名、論文名、発表年などが示されているかを見ます。
- 示されている根拠が、どのレベルの研究結果かを確認します。細胞や動物を使った実験段階なのか、ヒトでの臨床試験なのか。ヒトでの臨床試験であれば、参加者数、試験デザイン(比較対象群がいるか、無作為化されているか、二重盲検かなど)、結果が学術雑誌に掲載されているか(査読付きか)などが信頼性の目安となります。
- 公的機関(例:厚生労働省、国立健康・栄養研究所)や信頼できる専門学会が、その効果についてどのような見解を示しているかを確認することも非常に重要です。
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主張が極端ではないか評価する:
- 「万能」「絶対」「〜だけで治る」といった断定的な言葉や、短期間での劇的な変化を約束するような表現には強い注意が必要です。
- 医学的に確立された治療法を否定し、自社の商品やサービスだけを唯一の解決策であるかのように謳う主張は、極めて疑わしいと考えられます。
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信頼できる複数の情報源と照合する:
- 公的機関のウェブサイト、信頼できる医療機関のサイト、医学専門書、査読付きの学術論文など、広告主とは直接的な関係のない信頼できる情報源で、その主張が裏付けられているかを確認します。
- 特定の情報源のみを鵜呑みにせず、複数の角度から情報にアクセスすることが大切です。
誤った情報を他者(患者や家族など)に説明する際のポイント
医療従事者の方などが、患者さんやそのご家族から健康情報の広告やプロモーションに関する質問を受けた際、どのように対応すれば良いでしょうか。
- まずは傾聴し、否定から入らない: 相手がなぜその情報を信じているのか、どのような不安を抱えているのかを丁寧に聞き取ります。「〜という広告をご覧になったのですね」のように、相手が受け取った情報を尊重する姿勢を示します。頭ごなしに「それは間違いです」と否定すると、かえって相手を頑なにしてしまうことがあります。
- 一緒に情報を確認する姿勢を示す: 「その情報について、もう少し詳しく調べてみましょうか」のように、一緒に真偽を確認する協力的な姿勢を見せます。「この広告では〇〇と書かれていますが、公的な機関である厚生労働省のウェブサイトでは、現在のところ十分な科学的な根拠は確認されていないと示されていますね」のように、信頼できる情報源と比較する具体的な手順を示します。
- チェックポイントを分かりやすく伝える: 前述の「誰が言っている情報か」「科学的な根拠は示されているか」「公的な機関の見解はどうか」といったチェックポイントを、専門用語を避けて平易な言葉で説明します。例えば、「この情報、誰が出している広告なのか分かりますか?」「何か、ちゃんとした研究で確認されていることなのか、見てみましょうか?」のように、具体的な確認方法を提案します。
- 広告の意図について説明する: 「広告というのは、商品の良いところを強調して、皆さんに買ってもらうためのものなんです。ですから、書いてあることすべてを鵜呑みにするのではなく、少し立ち止まって考えてみるのが大切ですよ」のように、広告には商品やサービスへの誘導という目的があることを優しく伝えます。
- 信頼できる情報源を提示する: 症状や疾患に関する正確な情報は、医療機関のウェブサイトや、公的な相談窓口などで得られることを伝えます。
まとめ
健康情報の広告やプロモーションは、私たちの健康への関心につけ込み、巧みな表現で商品やサービスへの関心を高めます。しかし、そのすべてが科学的に裏付けられた信頼できる情報とは限りません。
情報の「発信元」「科学的根拠の有無とそのレベル」「主張の極端さ」といったチェックポイントを確認し、常に複数の信頼できる情報源と照らし合わせる習慣をつけましょう。特に、広告やプロモーションは「売る」ことを目的としている可能性があることを理解し、その裏にある意図を見抜く視点を持つことが重要です。
これらのチェックポイントを意識することで、情報に振り回されることなく、ご自身の健康管理に本当に役立つ情報を選び取ることができるようになります。また、周囲の方が誤った情報に触れている際には、これらのチェックポイントを共有し、共に信頼できる情報へアクセスする手助けをすることも、情報リテラシーを高める上で非常に価値のある行動と言えるでしょう。