「病気の原因」に関する健康情報、その信頼性を判断する視点
インターネット上には、様々な健康情報があふれています。その中でも、特定の病気の「原因」に関する情報は、多くの方の関心を集めやすいテーマの一つです。しかし、中には科学的な根拠が不明確であったり、誤解を招くような情報も少なくありません。ここでは、「病気の原因」に関する情報の信頼性をどのように判断するかについて解説します。
「病気の原因」情報に潜む落とし穴
特定の病気がなぜ起こるのか、その原因を知りたいと思うのは自然なことです。原因が分かれば、予防策を講じたり、適切な治療法を選択したりすることにつながると考えるためです。しかし、「病気の原因はこれだ」と断定するような情報は、注意深く検討する必要があります。
多くの病気、特に生活習慣病や慢性疾患は、一つの原因だけで引き起こされるわけではありません。遺伝的な要因、環境要因、生活習慣(食事、運動、喫煙、飲酒など)、ストレス、免疫の状態など、複数の要因が複雑に絡み合って発症に至ることが一般的です。これを「多因子性」と呼びます。
インターネット上の誤った「原因論」は、この多因子性を無視し、特定の単一の原因(例:ある食品、特定の行為、精神的な状態だけ)に結びつけがちです。このような単純化された情報は、理解しやすい一方で、多くの場合、科学的な裏付けに乏しい傾向があります。
「病気の原因」情報の信頼性を見分けるチェックポイント
「病気の原因は○○だ」という情報を見たとき、以下の点をチェックすることで、その信頼性を判断する手助けとなります。
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情報源は信頼できますか?
- その情報を発信しているのは誰ですか。個人ブログ、企業の宣伝ページ、ニュースサイト、それとも公的機関や専門学会、研究機関ですか。
- 公的機関(例:厚生労働省、国立がん研究センターなど)や、その分野の専門学会が発信する情報は、複数の専門家による検証を経ており、信頼性が高いと言えます。一方、個人の体験談や、販売促進を目的とした企業のサイトの情報は、客観性や科学的根拠が不足している場合があります。
- 「医師監修」や「専門家推奨」といった表示があっても、その専門家の所属や専門分野、具体的な根拠が明記されているか確認しましょう。
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科学的根拠は明確ですか?
- その情報に「科学的研究で明らかになった」といった記載はありますか。もしあれば、どのような研究か(ヒトを対象としたものか、動物実験か、試験管内の実験かなど)、研究の規模(参加者数など)、研究の出典(論文名や掲載雑誌など)が具体的に示されているか確認しましょう。
- 特定の小規模な研究「だけ」を根拠としている場合や、出典が不明な場合は、注意が必要です。信頼性の高い情報源は、複数の研究結果や専門家の合意に基づいていることが多いです。
- 「体験談」や「個人の感想」は、科学的な根拠とは異なります。特定の人が改善したとしても、それがその「原因排除」や「治療法」によるものか、他の要因か、あるいは自然経過かは科学的には証明されません。
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論理的な飛躍や極端な断定はありませんか?
- 「○○を食べると△△病の原因になる」「××をしないから病気になった」のように、単純な因果関係を断定していませんか。
- 多くの病気は多因子性であり、特定の単一要因で決まるわけではありません。極端に単純化された主張は、科学的な事実から乖離している可能性が高いです。
- 不安を煽るような表現(「これをしないと危ない」「あなたの病気の真の原因はこれ」など)や、「これをすれば必ず治る」のような誇大な表現も、信頼性の低い情報によく見られます。
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特定の製品やサービスへの誘導はありませんか?
- 「病気の原因は○○物質の不足です。この物質を補うには、当社の△△サプリメントが効果的です」といった形で、特定の製品やサービスの購入を促していませんか。
- 商業目的の情報は、自社製品に都合の良い情報だけを強調し、不利な情報(科学的根拠の不足や副作用など)を隠蔽する傾向があります。
信頼できる「病気の原因」情報の参照先
病気の原因について正確な情報を知りたい場合は、以下のような信頼性の高い情報源を参照することをお勧めします。
- 公的機関のウェブサイト: 厚生労働省、国立研究開発法人(例:国立がん研究センター、国立循環器病研究センターなど)のウェブサイトは、国内外の最新の研究に基づいた情報を提供しています。
- 専門学会のウェブサイト: 日本内科学会、日本循環器学会、日本癌学会など、各疾患や専門分野の学会が一般向けの情報を公開している場合があります。
- 主要な病院の情報サイト: 大学病院や地域の基幹病院などが、疾患に関する解説ページを提供していることがあります。
- 医学事典・教科書: 専門的な情報が必要な場合は、信頼できる医学事典や教科書を参照するのも有効です。
誤った情報を他者に伝える際の配慮
ご家族や患者さんなどが、インターネット上の誤った「病気の原因」情報に惑わされている場合、頭ごなしに否定するのではなく、相手の不安に寄り添う姿勢が大切です。
- まず、相手がどのような情報を見て、どのような不安を感じているのかを丁寧に聞きましょう。
- 病気の原因は一つではなく、様々な要因が関係していること(多因子性)を、専門用語を使わずに分かりやすく説明します。「〇〇だけが原因というわけではないようです」といった表現を用いると良いかもしれません。
- 信頼できる情報源(「お医者さんが解説している、こんな情報もありますよ」「厚生労働省のホームページでは、こんな風に説明されています」など)を提示し、そちらも参考にしてもらうことを勧めます。
- 断定的な言い方を避け、「可能性としては低いと考えられています」「科学的にはまだ証明されていません」といった、根拠に基づいた慎重な表現を心がけましょう。
まとめ
「病気の原因」に関する情報は、多くの人の関心を引きやすく、同時に誤解や不安を生みやすいテーマです。インターネット上の情報に接する際は、情報源の信頼性、科学的根拠の有無、論理的な整合性、そして商業的な意図がないかを冷静にチェックすることが重要です。多因子性という病気の複雑さを理解し、信頼できる情報源を参照する習慣を身につけることで、誤った情報に惑わされることなく、正確な知識に基づいて健康管理を進めることができるでしょう。また、誤った情報を持つ他者に対しては、科学的な視点を持ちつつ、相手の気持ちに寄り添い、分かりやすく正確な情報を提供することが求められます。