健康情報の「古さ」を見抜く:情報更新の重要性とデマ回避のポイント
健康情報に「賞味期限」はあるのか? 古い情報がデマになる理由
インターネットやメディアには様々な健康情報があふれています。信頼できる情報を見分けることは重要ですが、もう一つ見落とされがちな視点があります。それは、情報の「鮮度」、つまり「いつの情報か?」ということです。
健康や医療に関する知見は、科学技術の進歩や研究の蓄積によって常に更新されています。かつては常識とされていたことが覆されたり、新しい治療法や予防法が確立されたりすることは珍しくありません。そのため、古い情報がそのまま残っていると、現在の科学的根拠とは異なる、あるいは既に否定された内容が広まってしまうことがあります。これが、情報の「古さ」が原因で発生する健康デマの一つの形です。
本記事では、健康情報における情報更新の重要性を理解し、古い情報を見分けるための具体的なチェックポイント、そして信頼できる最新情報にアクセスするための方法について解説します。
健康情報が更新される背景と、古い情報がもたらすリスク
なぜ健康情報は変化し続けるのでしょうか。主な理由として以下が挙げられます。
- 新たな研究結果: 世界中で日々行われている研究により、病気の原因、メカニズム、治療法に関する新たな知見が得られます。
- 科学技術の進歩: 分析技術や検査技術の向上により、これまで分からなかったことが明らかになります。
- 臨床試験のデータ集積: 大規模な臨床試験により、特定の治療法や薬剤の効果と安全性がより正確に評価されるようになります。
- ガイドラインの改訂: 最新の研究結果や臨床データを踏まえ、学会や専門機関は診断・治療ガイドラインを定期的に見直します。
- 新しい医薬品や治療法の開発・承認: これまでになかった選択肢が登場します。
このように情報が更新される一方で、インターネット上には過去の情報がそのまま残されがちです。ブログ記事、古いウェブサイト、SNSの過去の投稿などが該当します。これらの情報が現在の常識と異なっている場合、参照した人が誤った知識を身につけたり、他者に不正確な情報を伝えてしまったりするリスクが生じます。最悪の場合、健康を損なう可能性すらあります。
情報の「古さ」を見抜くための具体的なチェックポイント
健康情報に接した際に、その情報の「鮮度」を確認するためのチェックポイントをいくつかご紹介します。
1. 情報が公開・更新された日付を確認する
最も基本的で重要なチェックポイントです。
- ウェブサイトの場合: 記事の冒頭や末尾に「公開日」や「最終更新日」が記載されていないか探してください。信頼できるサイトであれば、これらの日付が明記されていることが一般的です。日付が見当たらない、あるいは極端に古い日付の場合は注意が必要です。
- ブログや個人サイトの場合: 日付が記載されていることが多いですが、古い情報が修正されずに残っている可能性があります。
- SNSの場合: 投稿された日付を確認してください。数年前の情報であれば、その後の研究で覆されている可能性があります。
- ニュース記事の場合: 配信された日付は必ず確認できますが、そのニュースが引用している「研究」や「発表」がいつのものかに注目することも重要です。
特に、病気の治療法、予防法、特定の食品の効能など、医学的な知見が関わる情報は、比較的短期間で大きく変化する可能性があります。一般的には、数年以上前の情報については、現在の標準的な見解と異なっていないか、より慎重な確認が必要です。
2. 情報源の種類と更新頻度を考慮する
情報が掲載されている媒体の種類も判断材料になります。
- 公的機関のサイト(厚生労働省、国立研究開発法人など): これらのサイトに掲載されている情報は、専門家によって吟味され、比較的定期的に更新されている傾向があります。
- 学会や専門家団体のサイト: 最新の研究成果やガイドラインが反映されやすい情報源ですが、サイト全体の更新頻度は団体によって異なります。
- 医療機関のサイト: 疾患情報などが掲載されていますが、必ずしも最新の情報に更新されているとは限りません。最終更新日を確認することが重要です。
- ニュースサイト: 速報性は高いですが、研究結果の解釈などが限定的である場合もあります。続報や他の情報源と比較検討が必要です。
- 個人ブログやまとめサイト: 情報源が明確でない場合や、個人の経験・解釈に基づく情報が多く、情報の鮮度や正確性が保証されにくい傾向があります。
信頼できる情報源であっても、過去の掲載情報がそのまま残っている可能性はあります。そのため、「情報源が信頼できるから古い情報でも大丈夫」と安易に判断せず、日付による確認も併せて行うことが重要です。
3. 引用されている情報の「古さ」を確認する
記事や情報の中で、特定の研究論文や統計データが根拠として引用されている場合があります。その引用元がいつ発表されたものかを確認することも有効です。極端に古い研究結果のみを根拠としている場合、その後のより新しい、大規模な研究によって、結論が覆されている可能性があります。
4. 現在の標準的な見解と比較する
最も確実な方法の一つは、その健康情報の内容が、現在、広く信頼されている医療機関や専門機関が示している標準的な見解と一致しているかを確認することです。例えば、ある疾患の治療法に関する情報であれば、公的な診療ガイドラインや、大学病院などの大規模医療機関が提供している患者向け情報などを複数参照し、比較検討してみてください。内容が大きく異なる場合は、古い情報であるか、あるいは非科学的な情報である可能性が高いです。
最新の信頼できる情報にアクセスするために
情報の「古さ」を見抜くことは、デマ回避の重要なステップです。常に最新の信頼できる情報にアクセスするためには、以下の点を心がけると良いでしょう。
- 信頼できる情報源をブックマークする: 公的機関、主要な学会、信頼性の高い医療情報サイトなど、定評のある情報源をいくつか選び、定期的にチェックする習慣をつけましょう。
- 複数の情報源を参照する: 一つの情報源だけでなく、複数の信頼できる情報源で同じ内容を確認することで、情報の正確性や最新性をより確実に判断できます。
- 「最新の研究」「新しい知見」といった言葉に飛びつかない: これらの言葉は耳目を引きますが、その研究がどの段階のものか(基礎研究か臨床研究か)、規模はどの程度か、他の研究との整合性はあるかなどを冷静に判断する必要があります。メディアで大きく取り上げられた研究でも、その後の追試で結果が異なったり、臨床応用には至らなかったりすることも多くあります。
- 定期的な情報更新を意識する: 過去に調べたことのある健康情報についても、「今の常識はどうなっているのだろう?」という視点を持って、時々見直してみることが大切です。
古い情報に基づいて誤解している人に伝える際の注意点
ご自身が得た最新の情報と異なり、古い情報に基づいて誤解している方(例えば、患者さんやご家族)に説明する場合、以下の点に注意すると良いかもしれません。
- 頭ごなしに否定しない: 相手が信じている情報を否定されると、反発心を持つことがあります。「その情報は以前は言われていたことですが…」のように、まずは相手が持っている情報の背景を理解しようとする姿勢を見せると、聞き入れてもらいやすくなります。
- 情報が「更新された」ことを説明する: なぜその情報が今は推奨されないのか、科学的な知見がどのように変化したのかを、専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧に説明します。「新しい研究で〇〇ということが分かったため、今は△△という考え方が主流になっています」のように、変化の理由を具体的に伝えると理解が得られやすいです。
- 最新の信頼できる情報源を示す: 可能であれば、「〇〇という公的機関のサイトに最新の情報が載っていますよ」「担当の医師に確認してみると良いでしょう」のように、信頼できる情報源を示すことで、ご自身で正しい情報にアクセスできるよう促すことができます。
- 不安を和らげる: 相手が古い情報によって過剰な期待や不安を抱いている場合は、感情に寄り添い、現在の医学的な見解に基づいた現実的な情報を提供することで、不安を和らげるように努めます。
まとめ
健康情報は生き物のように変化します。「最新の情報だから正しい」「古い情報だから間違っている」と単純に線引きできるものではありませんが、情報の「古さ」は、その情報が現在の科学的根拠に基づいているかどうかを判断するための重要な手がかりの一つです。
情報が公開・更新された日付、情報源の種類、引用文献の古さなどをチェックし、複数の信頼できる情報源で内容を比較検討することで、情報の「鮮度」を適切に評価できます。常に情報を更新し、最新の信頼できる情報にアクセスする習慣を身につけることが、健康デマに惑わされず、ご自身の健康管理や他者への正確な情報提供に繋がります。