健康情報で見かける画像や動画、その信頼性をどう判断するか:視覚情報に潜む誤解を見抜くチェックポイント
インターネット上には様々な健康情報が溢れていますが、その多くはテキストだけでなく、画像や動画といった視覚情報と共に提示されています。これらの視覚情報は、情報を直感的に理解しやすく、印象に残りやすいという利点がある一方で、誤解を招いたり、意図的に事実を歪めたりするために利用される可能性も秘めています。特に健康や医療に関する情報においては、視覚情報のみを鵜呑みにせず、その信頼性を冷静に見極める視点が非常に重要となります。
この記事では、健康情報として提示される画像や動画に潜む可能性のある誤解や操作を見抜き、その信頼性を判断するための具体的なチェックポイントについて解説します。
なぜ画像や動画に注意が必要なのか
画像や動画は、視覚に直接訴えかけるため、強い印象を与えやすく、情報の受け手に感情的な影響を及ぼしやすいという特徴があります。しかし、その視覚的なインパクトゆえに、以下のような形で情報の信頼性が損なわれている場合があります。
- 意図的な加工・編集: 色調補正、切り抜き、合成、速度調整などにより、現実とは異なる印象を作り出すことができます。
- 文脈の欠如: 全体の状況から切り離された一部分の画像や動画だけを見せることで、誤った解釈を誘導する可能性があります。
- 誇張表現: 劇的な変化を示すために、極端な例だけを選んだり、不自然な演出を加えたりすることがあります。
- 古い情報・無関係な情報: 現在の状況とは異なる過去の映像を使ったり、記事の内容とは無関係なイメージ映像を挿入したりする場合があります。
これらの操作により、視覚情報はあたかも客観的な事実であるかのように提示されながらも、実際には特定のメッセージを強調したり、都合の悪い部分を隠したりするための「見せ方」になっている可能性があるのです。
画像・動画の信頼性を判断するチェックポイント
健康情報に添付されている画像や動画の信頼性を判断するためには、以下の点に注意して確認することが有効です。
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出典・情報源を確認する:
- その画像や動画はどこから来たものですか。元の情報源は明確に示されていますか。
- 個人が撮影したものでしょうか、それとも公的機関、研究機関、メディアなどが提供しているものでしょうか。
- 信頼性の高い情報源(例: 病院の公式チャンネル、学術機関の公開資料、国や自治体のウェブサイトなど)からのものであるかを確認します。出典が不明確な場合や、怪しいウェブサイトからの引用である場合は、信頼性が低いと考えられます。
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撮影状況・背景情報を確認する:
- いつ、どこで、どのような状況で撮影されたものですか。撮影された日時や場所が明記されていますか。
- 映っている人物は誰ですか。同意を得て撮影されたものですか。
- その画像や動画は、記事で主張されている内容と本当に合致していますか。全く異なる文脈で撮影されたものが流用されている可能性も考慮します。
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加工・編集の可能性を疑う:
- 不自然な点の有無(色合い、輪郭、つなぎ目など)を注意深く観察します。
- 特に「ビフォーアフター」を示す画像や動画では、照明、角度、表情、服装、メイクなどの条件が揃っているかを確認します。条件が大きく異なる場合、変化が誇張されている可能性があります。
- 動画の場合は、速度が不自然に速かったり遅かったりしないか、不自然なカット編集がないかなども確認します。
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視覚情報「だけ」を鵜呑みにしない:
- 画像や動画が示す内容だけでなく、付随するテキスト情報(説明文、データ、根拠となる研究結果など)を必ずセットで確認します。
- 視覚情報はあくまで情報を補完するものとして捉え、テキスト情報や提示されているデータの信頼性を別途検証することが重要です。
- 「見て分かる」という直感に頼りすぎず、理性的に内容を分析する姿勢を保ちます。
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他の情報源と照合する:
- その画像や動画が示す現象や結果について、他の信頼できる情報源(例: 複数の公的機関、専門家の見解、信頼性の高い医学文献など)でも同様の情報が確認できるかを調べます。
- 特定の情報源の画像や動画だけが、異様に「劇的な」結果を示している場合、注意が必要です。
信頼できる健康情報の視覚情報とは
では、どのような視覚情報であれば、比較的信頼性が高いと言えるでしょうか。
- 学術論文や医学書に掲載されている図表や画像: 査読や編集を経ており、出典が明確であるため、一定の信頼性があります。ただし、その図表や画像が論文全体の結論を正しく反映しているか、文脈から切り離されて誤用されていないか、元の論文を確認することが望ましいです。
- 公的機関(厚生労働省、国立研究開発法人など)が公式に公開している画像や動画: 疾患の説明、統計データのグラフ、推奨される行動の手順などを分かりやすく示すために作成されたもので、信頼性が高い傾向にあります。
- 医療機関や研究機関が、専門家によって監修・作成し、公式ウェブサイトやチャンネルで公開している動画: 疾患の解説、検査や治療の説明、リハビリテーションの方法など、専門的な知識に基づいた情報が提供されていることが多いです。
- ニュースメディアが、取材に基づき、出典や状況説明を明確にして使用している映像: ただし、ニュースメディアの信頼性自体も確認が必要ですし、センセーショナルな編集がされていないか注意が必要です。
他者へ説明する際のポイント
誤った画像や動画に基づく健康情報について、他者(例えば患者さんやご家族)に説明する際には、視覚情報の持つ強い印象を理解した上で、感情的にならず、科学的根拠に基づいて冷静に伝えることが大切です。
- 「この画像(動画)は、このように加工されている可能性がある」「撮影された状況が不明確で、一般的な状況を反映していない可能性が高い」など、具体的なチェックポイントに触れながら、なぜその視覚情報「だけ」では判断できないのかを説明します。
- 視覚情報が提示する内容と異なる、信頼できる情報源からのデータや知見を提示し、比較してもらうように促します。
- 不安を煽るような言葉遣いは避け、「この情報には注意が必要です」「より信頼できる情報はこちらです」という形で、判断をサポートする姿勢を示すことが重要です。
まとめ
健康情報における画像や動画は、理解を助ける強力なツールとなり得ますが、その見せ方によっては事実を歪め、誤解を招く可能性があります。特にインターネット上では、出典不明確なものや意図的に加工されたものが流通していることも少なくありません。
情報の真偽を見極めるためには、視覚情報「そのもの」だけでなく、その出典、撮影状況、そして付随するテキスト情報や他の情報源との照合を冷静に行うことが重要です。視覚情報に潜む操作や誤解の可能性を理解し、感情に流されることなく、科学的根拠に基づいた情報に基づいて判断する。この視点が、情報過多の時代において、信頼できる健康情報にたどり着くための確かな一歩となるでしょう。