健康情報の発信者、その信頼性をどう見極めるか
インターネットや様々なメディアで健康情報を得ることは、私たちの健康管理にとって非常に役立ちます。しかし同時に、根拠の乏しい情報やデマも少なくありません。これらの情報を見分ける上で、情報の「内容」だけでなく、その情報が「誰から発信されているか」という視点が極めて重要になります。
この重要性について、具体的なチェックポイントを通して解説を進めます。情報発信者の信頼性を見極めることは、正確な情報に基づいた判断を行うための第一歩となるからです。
信頼できない情報発信者の典型的な特徴
まず、注意が必要な情報発信者にはいくつかの共通する特徴が見られます。
- 匿名または所属・連絡先が不明: 誰が、どのような立場で発信しているのかが不明確な情報は、信頼性が低い可能性が高いです。責任の所在が明らかでないため、不正確な情報や無責任な発言が含まれるリスクがあります。
- 過度に感情的・断定的な表現: 「絶対に治る」「驚くほど効果がある」といった誇大的な表現や、科学的な根拠が不明確なまま特定の効果を断定する情報は、注意が必要です。科学的な知見は常に検証可能であり、通常は効果に個人差があることや限界についても言及されます。
- 特定の製品やサービスへの誘導: 情報提供を装いながら、特定のサプリメント、健康器具、治療法などを強く推奨し、購入や契約を促すような内容は、客観性を欠いている可能性があります。その情報が、商業的な目的のために発信されていないかを確認することが重要です。
- 個人の体験談のみを根拠とする: 「これを試したら治った」「痩せた」といった個人の体験談は、多くの場合、医学的な根拠とは異なります。効果の要因は個人によって異なり、その再現性や普遍性はありません。科学的な根拠を示すことなく、体験談だけを強調する情報は、判断材料としては不十分です。
- 専門家を名乗るが、専門分野が不明確、または資格が確認できない: 医師、管理栄養士、薬剤師などの専門家を名乗っていても、その専門分野が曖昧であったり、公的な資格や所属機関が確認できなかったりする場合は、その情報に専門性が伴っているか慎重に判断する必要があります。
信頼できる情報発信者を見分けるためのチェックポイント
では、どのような情報発信者を信頼できる可能性が高いと判断できるでしょうか。以下の点をチェックすることが推奨されます。
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発信者の身元、所属、資格の確認:
- 誰が発信しているのか明確か? 個人名か、組織名か。
- どのような所属機関に属しているか? 大学、研究機関、医療機関、公的機関、学会など、その機関は信頼性が高いか。
- 発信者の専門分野は何か? 情報の内容と専門分野は一致しているか(例: 糖尿病に関する情報なら内分泌代謝科の医師や管理栄養士など)。
- 必要な資格を持っているか? 医師免許、薬剤師免許、管理栄養士免許など、公的な資格が確認できるか。
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情報源の明示と科学的根拠:
- 情報源(参考文献、データなど)が明示されているか? その情報が、どのような研究やデータを基にしているのか、根拠が明確に示されているか。
- 示されている情報源は信頼できるか? 医学論文(査読付き)、公的な統計データ、信頼できる学会のガイドラインなど、科学的・客観的な根拠に基づいているか。
- 最新の情報に基づいているか? 医学や栄養学の知識は日々更新されます。情報がいつ時点のものか、古すぎないかを確認します。
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情報発信の目的と利益相反の有無:
- 情報発信の目的は何か? 啓蒙、研究結果の報告、特定の課題提起など、公共性が高い目的か。
- 特定の製品やサービスとの関係は? 発信者が、特定の製品を販売している企業や、特定の治療法を提供する機関と関連があり、そこから金銭的な利益を得ている可能性はないか(利益相反)。利益相反が存在する場合、情報の客観性が損なわれている可能性があります。信頼できる発信者は、利益相反について透明性を持って開示していることが多いです。
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他の信頼できる情報源との照合:
- その情報が、他の複数の信頼できる情報源(公的機関のウェブサイト、主要な医療機関の情報ページ、信頼できる医学専門誌など)で確認できる内容と一致しているか。一つの情報源だけでなく、複数の情報源を比較検討することは、情報の真偽を判断する上で非常に有効です。
信頼できる情報源の具体的な例
一般的に、以下のような情報源は信頼性が比較的高いと考えられます。
- 公的機関: 厚生労働省、国立感染症研究所、国立がん研究センターなど、国の機関が提供する情報。
- 大学・研究機関: 大学の医学部や関連研究機関が発表する研究成果や情報。
- 医療機関: 病院や診療所などの医療機関が提供する患者向けの情報。
- 学会: 各専門分野の学会が公開する診療ガイドラインや、専門家向け・一般向けの解説。
- 信頼できる専門家: 上記の機関に所属し、専門分野に基づいた客観的な情報を発信している医師や研究者など。ただし、個人の発言は所属機関の見解とは異なる場合があるため、注意が必要です。
誤った情報を他者に説明する際のポイント
ご自身が正しい情報を見分けられたとしても、誤った情報を信じている他者(例えば患者さんやご家族)にそれを分かりやすく伝えることは容易ではありません。特に、情報源の信頼性について説明する場合、感情的にならず、冷静かつ論理的に伝えることが重要です。
- 特定の情報源の信頼性に疑問がある理由を具体的に示す: 「この情報は誰が言っているか分からない」「情報源として示されているのは個人のブログだけだ」「〇〇(公的機関や信頼できる学会)の情報とは違う内容が書かれている」など、具体的なチェックポイントを根拠として提示します。
- 感情や否定的な言葉は避ける: 「それは嘘だ」「デマに騙されている」といった強い言葉は避け、「私は〇〇という情報源でこのように学びました」「△△(公的機関)では、この情報について注意喚起をしています」など、客観的な事実や信頼できる情報源に基づいた説明を心がけます。
- 信頼できる情報源を提示する: 可能であれば、ご自身が信頼できると判断した公的機関や医療機関のウェブサイト、分かりやすい解説記事などを提示し、「こちらを参考にされてはいかがでしょうか」と提案します。
- 相手の不安や感情に配慮する: 相手がなぜその情報を信じたのか、どのような不安を抱えているのかを理解しようと努め、寄り添う姿勢を見せることも大切です。
結論
健康情報は私たちの生活に密接に関わるため、その真偽を見分けることは非常に重要です。インターネット上には玉石混交の情報が存在しますが、情報の内容だけでなく、「誰が発信しているのか」「どのような根拠に基づいているのか」といった情報発信者の信頼性を確認する視点を持つことで、より正確な情報にたどり着く可能性が高まります。
この記事でご紹介したチェックポイントや信頼できる情報源の例が、皆様が健康情報を判断される際の一助となれば幸いです。情報リテラシーを高め、科学的根拠に基づいた適切な情報に基づいて、ご自身の健康を守り、また周囲の方々にも正確な情報を伝えていくことの重要性を改めて認識していただければと思います。