誤った健康情報はなぜ生まれて広まるのか?:拡散のメカニズムと真偽判断の視点
誤った健康情報が広がる現状とその影響
現代社会において、インターネットは健康に関する情報を得るための主要な手段の一つとなっています。しかし、インターネット上には科学的根拠に基づかない情報や、意図的なデマも数多く存在し、これらが驚くべき速さで広まることがあります。
これらの誤った情報は、時に人々の健康や生命に重大な影響を与える可能性があります。不正確な情報に基づいて自己判断で治療法を変更したり、効果のない健康法に多額の費用を投じたりすることで、適切な医療を受ける機会を逃し、病状を悪化させるリスクも考えられます。
なぜ、これほど多くの誤った情報が生まれ、そして広まってしまうのでしょうか。そのメカニズムを理解することは、情報の真偽を見抜く力を高め、自らがデマの拡散に加担することを防ぐ上で非常に重要です。
誤った健康情報が広がる主なメカニズム
誤った健康情報が広がる背景には、様々な要因が複雑に絡み合っています。主なメカニズムを理解することで、情報の出所や内容を評価する際の視点を養うことができます。
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意図的な拡散(営利目的、特定の主張の推進)
- 特定の健康食品、サプリメント、健康機器、治療法などを販売促進するために、科学的根拠のない効果効能を謳う情報が発信されます。これは広告だけでなく、一見客観的な情報提供サイトや体験談の形をとることもあります。
- 特定の医療に対する不信感を煽ったり、代替療法などを推奨したりするために、偏った情報や偽情報が組織的に流されることがあります。
- クリック数や広告収入を目的として、人々の関心を引くためにセンセーショナルで扇情的な情報が作られ、拡散されるケースも見られます。
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意図的でない拡散(誤解、不正確な引用、個人的体験の一般化)
- 専門的な研究結果や医療情報を誤って解釈し、不正確な情報として拡散してしまうことがあります。
- 情報の断片だけを捉えたり、文脈を無視して引用したりすることで、元の情報とは異なる意味合いで伝わってしまうことがあります。
- 個人的な体験や身近な人の話を過信し、「自分に効果があったから全ての人に効果がある」「自分の周りで流行っているから正しい」と信じ込み、それを正確な情報として発信してしまうことがあります。
- 「良かれと思って」未確認の情報を共有してしまう善意の拡散も、結果として誤情報拡大に繋がります。
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情報の伝達経路とアルゴリズムの影響
- SNSやメッセージアプリでは、共感を呼びやすい情報や感情に訴えかける情報が速く、広範囲に拡散されやすい傾向があります。必ずしも情報の正確性が拡散力に直結するわけではありません。
- 検索エンジンや情報サイトのパーソナライズ機能やレコメンデーション機能は、利用者の興味や過去の行動に基づいて情報を提示するため、利用者が既に持っている考え(バイアス)を強化するような情報ばかりに触れる「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」現象を引き起こし、誤った情報に閉じ込められる可能性を高めます。
人が誤情報を信じやすい心理的要因
誤った情報が広がるのは、情報自体の特性だけでなく、受け手側の心理も大きく影響しています。
- 確認バイアス: 自分が既に信じていることや、信じたいと思っていることを裏付ける情報に、無意識のうちに注意を向け、受け入れやすい傾向があります。
- 権威への盲信: 「専門家が言っている」「有名人が推奨している」といった情報源の権威に過度に依存し、内容の検証を怠ってしまうことがあります。
- 不安や恐怖の解消願望: 健康に対する不安や、病気への恐怖心から、「これをすれば治る」「これを避ければ大丈夫」といった、単純で即効性がありそうな情報に飛びつきやすくなります。
- 目新しさや「秘密」への誘惑: 「最新の研究で判明した」「誰も知らない秘密の方法」といった謳い文句に惹かれ、情報の真偽よりも話題性や特別感を重視してしまうことがあります。
- 単純化された情報の受容: 複雑な科学的情報を理解するのは難しいと感じる人が多いため、分かりやすく単純化された情報(たとえ不正確であっても)を受け入れやすい傾向があります。
拡散のメカニズムを踏まえた真偽判断の視点
これらのメカニズムや心理的要因を理解した上で、情報の真偽を見分けるための具体的な視点を持ちましょう。
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情報源の背景と動機を推測する:
- その情報がどのような目的で発信されている可能性があるか、冷静に考えてみてください。営利目的か、特定の思想を広めたいのか、単なる個人的な意見か。情報発信者の公式サイトや過去の発言なども参考に、背景を探る視点が重要です。
- 信頼できる情報源(公的機関、大学・研究機関、権威ある学会など)からの情報かを確認します。ただし、「〇〇監修」といった表示があっても、その監修者が本当に責任を持って内容を保証しているか、その専門性なども慎重に判断する必要があります。
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情報の伝達経路を確認する:
- その情報がどこからどこを経て自分に届いたのかを意識します。SNSで個人的にシェアされた情報なのか、信頼できるニュース媒体の記事なのか、出典が不明な匿名情報なのか。伝達経路が不透明な情報や、伝言ゲームのように元の形が変わっている可能性のある情報には注意が必要です。
- 感情的な言葉やセンセーショナルな表現で「バズっている」情報に出会ったら、一度立ち止まり、冷静に内容を検証する姿勢が大切です。
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内容の単純化や極端な主張に気づく:
- 「〇〇だけで病気が治る」「〇〇は全て危険」といった、物事を極端に単純化したり、断定したりする情報には注意が必要です。特に健康や医療に関する情報は、多くの要因が複雑に絡み合っており、単純な原因と結果で説明できることばかりではありません。
- 「奇跡」「秘密」「陰謀」といった言葉が出てきたら、非科学的な情報である可能性が高いと考えられます。
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感情的な訴えに流されない:
- 読者の不安や恐怖を煽るような表現、あるいは過度な幸福感や安心感を約束するような表現で語られている情報には、冷静な視点が必要です。感情的な言葉に流されず、提示されている「事実」や「根拠」は何かを厳密に評価するように努めます。
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複数の信頼できる情報源でクロスチェックする:
- 一つの情報源だけを鵜呑みにせず、必ず複数の、かつ信頼できる情報源(例: 厚生労働省、国立研究機関、主要な医学会、信頼できる医療機関のサイトなど)で同じテーマに関する情報を確認します。異なる情報源間で内容に大きな乖離がある場合は、特に慎重な判断が必要です。
誤った情報を他者に説明する際の視点
自分が誤った情報ではないと判断しても、それを信じている他者(患者や家族など)に伝えるのは難しい場合があります。メカニズムを理解していることは、説明する上でも役立ちます。
- 相手がなぜその情報を信じているのか、背景にある不安や願望に耳を傾ける姿勢が重要です。頭ごなしに否定するのではなく、相手の感情に配慮したコミュニケーションを心がけます。
- 「なぜその情報が科学的に見て根拠が薄いと言えるのか」を、メカニズム(例: 営利目的で誇張されている可能性、個人的体験の一般化に過ぎない可能性など)を踏まえて、相手に分かりやすい言葉で具体的に説明することを試みます。
- 信頼できる情報源として、どのようなものがあるかを具体的に提示し、一緒に情報を見てみることを提案するなど、自分で判断するためのサポートを行う視点も有効です。
- 無理に考えを変えさせようとするのではなく、正確な情報を提供し、最終的な判断は相手に委ねるという姿勢も時には必要になります。
結論
インターネット上の健康情報には、人々の健康を願う善意の情報もあれば、意図的に誤りを広めようとする悪意の情報、そして誤解や不注意によって生まれた不正確な情報など、様々なものが混在しています。これらの情報がなぜ生まれ、どのようなメカニズムで広まっていくのかを知ることは、その真偽を見分ける上で非常に強力な武器となります。
情報源の背景、伝達経路、表現の特徴、そして情報を受け止める自身の心理的な傾向を常に意識し、立ち止まって考える習慣を持つことが、デマや誤情報に惑わされないための第一歩です。そして、信頼できる情報に基づいて行動することで、自らの健康を守り、また周囲の人々にも正確な情報を伝えていくことに繋がるでしょう。