健康関連のニュースリリースと報道記事、その信頼性をどう見極めるか
はじめに:身近な健康関連ニュース、その情報の波と向き合う
私たちの周りには、テレビ、新聞、インターネット上のニュースサイトなど、様々な媒体を通じて健康に関する情報が日々届けられています。新しい研究結果の発表、病気の予防策、健康食品や機器に関するニュースなど、その内容は多岐にわたります。こうした健康関連のニュースは、私たちの健康意識を高め、役立つ知識を得る機会となります。
しかし同時に、これらの情報の中には、科学的根拠が不十分であったり、特定の意図を持って発信されていたりするものも含まれている可能性があります。特に、スピードが重視されるニュース報道においては、情報の正確性や科学的な背景が十分に検証されないまま伝えられるケースもゼロではありません。
信頼できる情報を見分け、誤った情報に惑わされないためには、健康関連のニュースリリースや報道記事に接する際に、一定の基準を持って情報を評価することが重要です。この記事では、健康関連ニュースの信頼性を判断するための具体的なチェックポイントと、その情報にどう向き合うべきかについて解説します。
ニュースリリースと報道記事:それぞれの特性を知る
健康関連の情報は、主に「ニュースリリース」として研究機関や企業から発信され、それを基にメディアが「報道記事」として作成・公開するという流れが多く見られます。これらの情報の特性を理解することは、信頼性を判断する上で役立ちます。
-
ニュースリリース:
- 発信元:研究機関、大学、企業、NPOなどが自らの研究成果、製品・サービスに関する情報などを公式に発表するもの。
- 目的:情報公開、認知度向上、広報活動、研究成果の普及など。
- 特徴:発信者の意図が明確に反映されやすい傾向があります。肯定的な側面が強調されることが多いです。専門的な内容を、メディアや一般向けに分かりやすく記述しようと努めています。
-
報道記事:
- 発信元:新聞社、通信社、テレビ局、ウェブニュースサイトなどのメディア。ニュースリリースや独自の取材に基づいて作成されます。
- 目的:読者・視聴者にニュースを伝えること。
- 特徴:ニュースリリースを基にする場合、その内容を要約・編集して伝えます。複数の情報源を組み合わせたり、専門家への取材を加えたりすることもあります。ただし、メディアの編集方針や記者の理解度によって、情報のニュアみを異なって伝える可能性もあります。視聴率やクリック数を意識した、ややセンセーショナルなタイトルが付けられることもあります。
どちらの形式の情報に接する場合でも、その情報がどこから来て、どのような経路をたどり、どのような意図で発信されている可能性があるのかを意識することが、情報の評価の第一歩となります。
健康関連ニュースの信頼性を見極めるチェックポイント
健康関連のニュースリリースや報道記事に触れた際に、情報の信頼性を判断するために確認したい具体的なポイントを以下に示します。
1. 発信元・情報源の信頼性を確認する
情報が誰によって、どのような機関から発信されているかを確認することは非常に重要です。
- ニュースリリースの場合: 発信元の機関(大学、研究機関、企業など)が信頼できる実績や評価を持っているかを確認します。その機関のウェブサイトで他の情報も確認してみるのが良いでしょう。
- 報道記事の場合: 記事を作成したメディア(新聞社、テレビ局、ニュースサイトなど)の一般的な信頼性を評価します。また、記事の中で情報源(研究者、医療機関、論文など)が明記されているかを確認し、可能であればその情報源自体も調べてみます。匿名の情報源や、一次情報へのリンクがない場合は注意が必要です。
2. 科学的根拠の有無と質を評価する
健康情報において最も重要なのは、その主張が科学的な根拠に基づいているかどうかです。
- 「研究で明らかになった」という表現: どのような研究(動物実験か人体での臨床試験か、参加者数、研究デザインなど)で、どのような結果が得られたのか、具体的に記述されているかを確認します。研究が始まった段階なのか、すでに発表されて広く認められている結果なのかによって、情報の確実性は大きく異なります。
- 論文の引用: 報道記事の場合、元となった研究論文(特に医学・科学雑誌に掲載されたもの)が引用されているかを確認します。可能であれば、論文の抄録(アブストラクト)などを確認し、その研究の内容や結論を自分自身でも把握することを試みます。ただし、論文の内容を正しく理解するには専門知識が必要な場合もあります。
- エビデンスレベル: 理想的には、その主張がどの程度のエビデンスレベル(科学的根拠の強さ)に基づいているかに言及されていると信頼性が高まります。単一の小規模な研究結果よりも、複数の大規模な研究結果や、質の高いシステマティックレビュー、メタアナリシスに基づいた情報の方が信頼性は高いと言えます。
3. 情報の客観性とバランスをチェックする
ニュースリリースや報道記事は、情報の特定の側面を切り取って伝えることがあります。情報が客観的で、バランスが取れているかを確認します。
- 肯定的側面のみの強調: 特に企業からのニュースリリースでは、製品やサービスの肯定的な効果のみが強調され、リスクや限界、他の選択肢に関する情報が不足していることがあります。
- 限定的な結果の一般化: 特定の条件(例:特定の病状、特定の年齢層など)でのみ確認された効果が、あたかも全ての状況に当てはまるかのように報道されていないかを確認します。
- 代替情報への言及: ある治療法や予防法に関する情報の場合、それ以外の確立された方法や、その方法の限界についてもバランス良く触れられているかを確認します。
4. タイトルや表現の適切性を見抜く
特にウェブニュースでは、読者の関心を引くために、内容を誇張したり、結論を急ぎすぎたりするタイトルが使われることがあります。
- 煽情的なタイトル: 「驚きの新発見!」「ついに解明!」「〇〇だけで癌が治る!」といった、センセーショナルで断定的な表現には注意が必要です。
- 限定的な効果の拡大解釈: 「〇〇が□□のリスクを低下させる可能性が示唆された」という研究結果が、「〇〇で□□が予防できる」のように断定的に伝えられていないかを確認します。「可能性」「示唆された」「関連がある」といった慎重な表現が使われているかどうかも、情報発信者の姿勢を評価する上で参考になります。
- ビフォーアフター画像の提示: 特に製品やサービスの宣伝を含むニュースでは、効果を示すためのビフォーアフター画像が使われることがありますが、これが特定の条件下での結果に過ぎない可能性や、加工・編集されている可能性も考慮する必要があります。
5. 専門家のコメントは適切か
報道記事には、その分野の専門家のコメントが引用されることがあります。専門家の肩書きだけでなく、そのコメントが記事全体の文脈と合っているか、個人的な意見に偏りすぎていないかなどを確認します。可能であれば、その専門家が所属する機関や、過去の発言なども調べてみると、より客観的な評価が可能になります。
6. 信頼できる情報源も活用する
ニュースリリースや報道記事は速報性がありますが、情報の網羅性や詳細な科学的背景の説明には限界がある場合があります。ニュースで関心を持ったテーマについては、以下のような信頼性の高い情報源でも情報を確認し、多角的な視点を持つことが推奨されます。
- 厚生労働省、国立感染症研究所、国立がん研究センターなどの公的機関のウェブサイト
- 大学病院や主要な研究機関の公式ウェブサイト
- 各疾患や分野の専門学会のウェブサイト
- 信頼できる医療情報サイト(監修者が明記され、情報源が明示されているもの)
ニュースで得た情報を他者に伝える際の注意点
健康関連のニュース記事を読んで得た情報を、ご自身の周囲の方に伝える機会があるかもしれません。特に、医療従事者の方が患者さんやご家族からニュースに関する質問を受けた際に、どのように対応すべきかを考えることは重要です。
- 情報の不確実性を認識する: ニュース報道は速報性が高いため、その時点ではまだ研究段階であったり、他の研究者による追試や評価が十分でない情報も含まれている可能性があります。得られた情報が確定的な事実ではなく、「現時点での報告」や「可能性が示唆されている段階」であることを理解し、伝える相手にもそのニュアンスを含めて伝えるようにします。
- 科学的根拠に基づいて説明する: なぜそのニュースに懐疑的な視点を持つべきなのか、あるいはなぜその情報が信頼できると言えるのかを説明する際には、感情論ではなく、上記のような科学的根拠や情報源の信頼性といった客観的な視点に基づいた説明を心がけます。
- 断定的な表現を避ける: ニュースで「〇〇が効く」と報道されていても、「〇〇は病気を治します」のように断定的に伝えることは避けます。特に治療法や予防法に関する情報については、個人の病状や体質によって効果やリスクが異なる可能性があるため、注意が必要です。
- 専門家への相談を推奨する: ニュースで紹介された新しい治療法や健康法について質問を受けた場合など、専門的な判断が必要な内容であれば、「最終的な判断は医師や専門家にご相談ください」と伝え、適切な相談先へ誘導することが安全です。
まとめ:冷静な視点で健康関連ニュースに接する
健康関連のニュースリリースや報道記事は、私たちに新しい知識や情報を与えてくれる一方で、その内容を鵜呑みにすることなく、冷静な視点で評価することが求められます。
情報の「発信元」「科学的根拠」「客観性」「表現の適切性」といった基本的なチェックポイントを確認し、可能であれば複数の信頼できる情報源で裏付けを取る習慣をつけましょう。
これらの実践的なステップを踏むことで、情報の波に惑わされることなく、本当に役立つ健康情報を賢く活用できるようになります。そして、もし周囲の方が誤った情報に触れているようであれば、感情的にならず、科学的根拠に基づいた冷静な情報提供を試みることが、より健全な情報流通につながるでしょう。