健康情報で見かける「最新治療」「未承認治療」:その信頼性を判断する視点
インターネットやSNSで「画期的な最新治療法」「奇跡の未承認治療」といった情報を見かけることがあります。病気や症状に悩む方にとっては、こうした情報に希望を見出すこともあるかもしれません。しかし、これらの情報の中には、科学的な根拠が乏しいものや、誤解を招くものが少なくありません。
信頼性の低い情報に惑わされることは、適切な治療を受ける機会を逃したり、健康被害につながったりするリスクを伴います。ご自身の健康を守るため、また、周囲の方(患者さんやご家族など)から質問を受けた際に適切な対応をするためにも、こうした情報の真偽を見極める視点を持つことが重要です。
ここでは、「最新治療」「未承認治療」に関する健康情報の信頼性を判断するための具体的なチェックポイントと、その情報を他者に伝える際の注意点について解説します。
「最新治療」「未承認治療」情報に潜む誤情報の典型パターン
まず、信頼性に疑問のある「最新治療」や「未承認治療」情報によく見られるパターンを認識しておきましょう。
- 過度な成功体験談や個人の感想に終始している: 「これで完全に治った」「驚くほどの効果があった」といった個人の体験談や感想ばかりが強調され、客観的なデータが提示されない。
- 既存の標準治療を一方的に否定する: 現在広く行われている治療法を「効果がない」「危険だ」などと過剰に批判し、自らの方法だけを推奨する。
- 「画期的」「世界初」「秘密の」といった扇情的な言葉が多い: 冷静な情報提供というより、読者の関心や期待を煽るような表現が目立つ。
- 科学的なメカニズムが不明確、あるいは非科学的: どのように効果があるのか、その理由が医学的・科学的に説明できない、あるいは常識とかけ離れた説明がされている。
- 特定の施設や高額な商品・サービスへの誘導が目的: 情報提供を装いながら、結局は特定の医療機関への受診や、高額な健康食品、医療機器などの購入を強く勧める。
- 「承認待ち」「まもなく国が認める」といった曖昧な表現: 公的な承認が得られていない現状を濁し、あたかも将来承認されることが確実であるかのように示唆する。
情報の信頼性を判断するための具体的なチェックポイント
「最新治療」「未承認治療」に関する情報に触れた際は、以下の点を冷静に確認してみましょう。
1. 「最新」の定義を確認する
その情報が指す「最新」とは、具体的にどういう段階の治療法でしょうか。
- 標準治療として確立されているか: 大規模な臨床試験で有効性・安全性が確認され、学会のガイドラインなどで推奨されている治療法であれば、信頼性は高いと言えます。これは「最新」ではあるかもしれませんが、既に確立された医療です。
- 研究段階の治療法か: まだ臨床試験(治験)の途中であったり、動物実験や基礎研究の段階であったりする場合、ヒトに対する効果や安全性はまだ確立されていません。研究段階の情報が一般向けに誇大に伝えられている可能性を考慮する必要があります。どのフェーズの臨床試験なのか、その段階で得られているデータは限定的であることを理解してください。
2. 「未承認」の意味を理解する
「未承認」とは、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、その有効性や安全性が国によって確認・承認されていない状態を指します。未承認であることには、様々な理由が考えられます。
- 有効性が確認できていない: 科学的な試験で効果が証明されていない、または効果が限定的である。
- 安全性が確認できていない、またはリスクが高い: 予期せぬ、あるいは重篤な副作用のリスクがある。
- 研究が十分に行われていない: まだデータの蓄積が少なく、評価が定まっていない。
- 承認申請がされていない: 研究開発が頓挫した、あるいは申請するほどのデータが得られていない。
「未承認だからこそ効く」「既存薬の弊害がない」といった主張を見かけることもありますが、「未承認」であることは、有効性や安全性が公的に保証されていない、ということです。
3. 科学的根拠を確認する
情報の信頼性を判断する上で最も重要なのは、科学的な根拠があるか否かです。
- どのような根拠が示されているか: 個人の体験談や証言だけでなく、ヒトを対象とした臨床試験の結果が示されているか確認してください。特に、効果を客観的に評価するためにデザインされた、比較対照試験(例:プラセボ対照試験、標準治療との比較試験)の結果が重要です。
- 質の高い研究結果か: 研究の対象者数、追跡期間、評価方法などが適切か、第三者機関による査読(専門家による論文の内容審査)を受けているかなどを確認すると、より信頼性の高い情報か判断できます。症例報告(特定の個人や数名の治療経過)や動物実験、細胞レベルでの研究結果だけをもって「ヒトに効果がある」と結論づけるのは、科学的に飛躍がある場合が多いです。
- 複数の情報源で裏付けられているか: 特定の情報源だけでなく、他の信頼できる機関や研究でも同様の結果が報告されているか確認してみてください。
4. 情報源の信頼性を評価する
誰がその情報を発信しているのかは、信頼性を判断する上で重要な要素です。
- 発信者は誰か: 医師、研究者、医療機関、一般の個人、企業など、様々な発信者がいます。その分野の専門家であるか、所属する機関は信頼できるかを確認してください。匿名やハンドルネームでの発信には注意が必要です。
- 営利目的が絡んでいないか: 特定の医療機関や企業が、自社のサービスや商品を宣伝するために情報を発信している場合があります。その情報が客観的であるか、利益相反(COI)の可能性を考慮してください。
- 信頼できる情報源の活用: 厚生労働省、国立がん研究センター、国立循環器病研究センターなどの国の機関や、各疾患の専門学会、大学病院などが発信する情報は、一般的に信頼性が高いと言えます。これらの情報源で、気になる「最新治療」「未承認治療」について言及されているか調べてみるのも良いでしょう。
5. リスクや副作用に関する情報が十分か
効果やメリットばかりが強調され、考えられるリスクや副作用について十分に説明されていない情報には注意が必要です。どのような治療法にもメリットとデメリット、リスクはつきものです。不都合な情報が隠蔽されていないか、冷静に判断してください。
誤った情報を他者に説明する際のポイント
ご家族や知人、患者さんなどから「こんな最新治療があるらしいけど本当?」と尋ねられた際、どのように対応すれば良いでしょうか。単に「それは嘘です」と否定するだけでは、相手の不安や期待を増幅させてしまう可能性があります。
- 相手の気持ちに寄り添う: まずは、情報に希望を見出しているかもしれない相手の気持ちを受け止め、「色々な情報があって迷いますよね」「気になりますよね」といった共感を示すことから始めましょう。
- 断定的な否定を避ける: 「それはデマだ」「絶対に効かない」といった断定的な強い言葉は避け、「現時点では科学的に十分な確認が取れていない段階のようです」「多くの人を対象にした研究では、まだ効果や安全性が確立されていないと聞いています」など、事実に基づいた、より穏やかな表現を用います。
- 判断の基準を具体的に伝える: なぜその情報の信頼性に疑問を持つのか、今回のチェックポイント(例:公的な承認がないこと、科学的なデータが不足していること、情報源が不明確なことなど)を、相手に分かりやすい言葉で具体的に伝えます。専門用語は避け、比喩などを用いるのも良いでしょう。
- 信頼できる情報源や専門家への相談を勧める: 「もしご心配でしたら、まずは主治医の先生に相談してみるのが一番安心かと思います」「国の機関が出している○○というサイトで、一般的な治療法について確認できますよ」など、次に取るべき具体的で信頼できる行動を示すことが重要です。
- 不安を煽らない: 効果がないかもしれない、という事実を伝える際も、相手の不安を過度に煽るような表現は避け、冷静かつ丁寧な態度を保ちます。
まとめ
インターネット等で見かける「最新治療」「未承認治療」に関する情報は、玉石混淆です。安易に飛びつくのではなく、その情報が「最新」であることの意味、「未承認」であることのリスクを正しく理解し、科学的な根拠や情報源の信頼性といった具体的なチェックポイントに基づいて、冷静に判断することが大切です。
特に、病気の治療法に関する情報は、ご自身の健康や命に関わる重要なものです。気になる情報があった場合は、必ず信頼できる情報源で裏付けを確認するか、専門医に相談するようにしてください。そして、周囲の方が誤った情報に惑わされそうな時には、今回ご紹介したような視点と伝え方を参考に、寄り添いながら適切な情報へと導いてあげてください。情報リテラシーを高めることは、ご自身だけでなく、大切な人の健康を守ることにも繋がります。