健康情報の引用・出典の信頼性を判断する:実践的なチェックポイント
インターネット上には様々な健康情報が溢れています。その中には、信頼できる情報源に基づいたものもあれば、根拠が不明確であったり、誤った情報が含まれていたりするものもあります。情報の真偽を見分ける上で、その情報が何らかの「引用」や「出典」を示しているかどうか、そしてその引用・出典が信頼できるものなのかを判断することは非常に重要です。
この記事では、健康情報に示されている引用や出典の信頼性をどう見極めるかについて、具体的なチェックポイントを解説します。
健康情報における引用・出典の役割とチェックの重要性
健康情報において引用や出典が示されている場合、それは通常、その情報の主張が特定の研究、統計データ、専門機関の見解などに基づいていることを示す意図があります。しかし、単に引用や出典が示されているからといって、その情報が必ずしも正しいとは限りません。
引用・出典が誤っている、あるいは不適切に使用されているケースは少なくありません。例えば、
- 出典が示されていない: そもそも情報の根拠が全く不明です。
- 出典が曖昧すぎる: 「最近の研究によると」「専門家は指摘する」といった、具体性に欠ける表現です。
- 出典が信頼できない情報源: 個人のブログ、匿名掲示板、未確認の情報が拡散されるSNS投稿などが根拠とされています。
- 出典が情報の内容と一致しない: 示されている出典元を確認しても、記事で主張されている内容の根拠が見つからない、あるいは全く別のテーマについて書かれている場合があります。
- 都合の良い部分だけを引用している: 元の研究やデータの全体を見れば限定的な意味しかないのに、一部だけを切り取って全体を誤解させるように使われています。
- 古い情報や覆された研究結果を根拠としている: 現在では否定されている説や、より新しい研究で更新されている情報が使われています。
- 商業目的の情報源: 特定の商品やサービスへの誘導を目的としたウェブサイトやブログなどが根拠とされています。
これらのケースを見抜くためには、示されている引用・出典について、一歩踏み込んで確認する作業が必要になります。
引用・出典の信頼性を判断する実践的なチェックポイント
健康情報に示された引用や出典の信頼性を判断するために、以下のポイントを確認してみましょう。
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情報源は具体的に示されているか? 「〇〇大学の研究」「厚生労働省の発表」「New England Journal of Medicine掲載の論文」など、具体的な機関名、団体名、媒体名、あるいは論文名や書籍名、著者名が明記されているか確認します。単なる「研究」「発表」では不十分です。
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情報源は信頼できる機関・媒体か? 示されている情報源が、科学的・医学的に信頼性の高い機関や媒体であるかを見極めます。
- 信頼性が高い情報源の例:
- 国の公的機関(厚生労働省、国立感染症研究所など)
- 国際機関(WHOなど)
- 大学や公的な研究機関のウェブサイトや発表
- 査読(ピアレビュー)を経た学術論文が掲載される専門誌(例: Nature, Science, The Lancet, NEJMなど)
- 学会や専門家団体の公式発表やガイドライン
- 専門家による信頼性の高い書籍
- 原則として信頼性が低い情報源の例:
- 個人のブログやウェブサイト(専門家が運営している場合でも、個人的見解や未確認情報を含む可能性が高い)
- 匿名の掲示板やSNS投稿
- 商品販売サイトの体験談や「お客様の声」
- 根拠不明なまとめサイト
- 情報源が不明確なアフィリエイトサイト
- 信頼性が高い情報源の例:
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可能であれば原典(出典元)を確認する もしリンクが貼られていたり、論文名や書籍名が具体的に示されている場合は、実際にその原典を確認してみましょう。
- 原典にアクセスしてみて、情報が存在するか確認します。リンク切れの場合は注意が必要です。
- 原典の内容が、記事で主張されている内容の根拠となっているかを確認します。記事が原典の内容を正しく反映しているか、都合の良い部分だけを抜き出していないかなどを注意深く見ます。
- 学術論文であれば、論文の要旨(Abstract)や結論(Conclusion)だけでなく、研究の対象、方法、結果、考察全体を把握することが望ましいです。難しければ、少なくとも要旨で記事の内容が裏付けられているかを確認します。
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情報源は最新か? 健康や医療に関する情報は日々更新されています。示されている情報源がいつ発表されたものか( Publication Date など)を確認します。特に医学研究や治療法に関する情報は、古いものが現在の標準的な見解と異なっている場合があります。一般的に、より新しい情報源の方が現在の科学的知見を反映している可能性が高いですが、情報の性質や分野によって重要度は異なります。
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情報源に偏りはないか? 特定の意見や商品に都合の良い情報源だけを意図的に集めている可能性も考慮します。複数の異なる信頼できる情報源で同じ情報が確認できるかどうかも、信頼性を判断する上で参考になります。
これらのチェックは、必ずしも全ての情報源に対して完璧に行う必要はありませんが、特に重大な健康上の判断に関わる情報や、一般的な常識と大きく異なる主張を見かけた場合には、積極的に行うことを推奨します。
信頼できる情報源の見つけ方・活用方法
情報源の信頼性を判断する力を養うと同時に、日頃から信頼できる情報源を把握しておくことも重要です。
- 公的機関や信頼できる団体のウェブサイトを活用する: 厚生労働省、国立研究開発法人、特定の病気に関する患者会・支援団体など、公式な情報発信を行っている機関のウェブサイトは、一般的に信頼性が高いと言えます。
- 専門家が所属する組織の情報を見る: 大学病院のウェブサイトの疾患解説、学会のガイドラインなども参考になります。
- 医療機関のウェブサイト: かかりつけの病院や地域の基幹病院のウェブサイトも情報源として活用できます。
- 情報を複数の信頼できる情報源でクロスチェックする: 一つの情報源だけでなく、複数の信頼できる情報源で同じ情報が確認できるかを確認することで、情報の確実性を高めることができます。
誤った引用・出典に基づく情報を他者に伝える際の注意点
もし、知人や家族が誤った引用・出典に基づく健康情報を信じているようであれば、頭ごなしに否定するのではなく、冷静かつ丁寧に伝えることが大切です。
- 感情的にならず、事実に基づいて伝える: 「その情報、〇〇という出典元が示されていますが、そちらを確認してみると、記事の内容とは少し違うようですね」のように、確認した事実を伝えます。
- 信頼できる情報源を示す: その誤った情報に対して、公的機関や信頼できる研究機関などが発表している正確な情報を提示します。
- 「なぜその情報源が信頼できるのか」を簡潔に説明する: 例えば、「これは厚生労働省のサイトの情報で、国の機関が国民向けに公開している情報です」といった補足を加えると、相手も納得しやすくなります。
- 相手の不安や思いに寄り添う姿勢を示す: 相手がなぜその情報を信じたのか、どのような不安を抱えているのかを理解しようと努め、共感的な姿勢を示すことで、耳を傾けてもらいやすくなります。
まとめ
健康情報の真偽を見分けるためには、単に情報の内容だけでなく、その根拠として示されている引用や出典の信頼性を確認する視点が不可欠です。情報源が具体的か、信頼できる機関・媒体か、原典を確認できるか、情報が最新かといった点を確認することで、情報の確実性をより正確に判断することができます。
日頃から信頼できる情報源を活用し、不確かな情報に惑わされない情報リテラシーを身につけることは、ご自身の健康を守るだけでなく、大切な人に正確な情報を伝える上でも役立つでしょう。インターネット上の健康情報に触れる際には、ぜひ引用・出典のチェックを習慣づけてみてください。