健康情報における統計データや研究結果の落とし穴:誤情報を見抜くポイント
健康情報における統計データや研究結果の真偽を見分けるために
インターネット上には様々な健康情報があふれていますが、その中には統計データや研究結果が引用され、「科学的根拠に基づいている」と主張されるものも少なくありません。しかし、統計データや研究結果は、その見方や解釈を間違えると、誤った結論を導き出す可能性があります。誤った情報に惑わされず、正確な知識を得るためには、これらの情報をどのように読み解けば良いのでしょうか。
この記事では、健康情報に引用される統計データや研究結果に潜む「落とし穴」に焦点を当て、その真偽を見分けるための具体的なチェックポイントと、信頼できる情報源の見つけ方について解説します。
統計データに潜む落とし穴とチェックポイント
統計データは、特定の傾向を示すために非常に有効ですが、提示の仕方一つで印象が大きく変わることがあります。健康情報で統計データを見かけた際には、以下の点に注意して確認してみてください。
- データの出典元を確認する: その統計データは、信頼できる公的機関(厚生労働省、国立がん研究センターなど)、大学や研究機関、または国際的な機関(WHOなど)が発表したものですか。出典元が不明確であったり、信頼性に疑問のある機関であったりする場合は注意が必要です。
- データの定義と対象を確認する: その統計は「何を」「どのように」数えたものですか。例えば、「病気にかかった人」の定義、調査の対象となった「年齢層」「地域」「期間」などが明確に示されていますか。定義や対象が異なると、単純な比較はできません。
- 比較対象を検討する: 特定の数値が提示されている場合、それは何と比較されていますか。「以前より〇〇%改善した」「〇〇を使うと〇〇%リスクが減る」といった表現は、比較対象(以前の状態、〇〇を使わない場合など)が適切でなければ意味がありません。都合の良い比較だけを抜き出していないか確認しましょう。
- 絶対数と相対数に注目する: 「死亡リスクが50%減少」と聞くと劇的な効果のように感じますが、元のリスクが非常に低い場合(例:10万人に1人から20万人に1人への減少)、絶対数で見ると影響は限定的です。リスクの減少率(相対リスク減少)だけでなく、元のリスクや絶対的なリスク減少幅も確認することが重要です。
- グラフの軸やスケールを確認する: グラフは視覚的に分かりやすい反面、意図的に誤解を招くように操作されることがあります。縦軸や横軸の目盛りの始まりや間隔、データの範囲などが適切に設定されているか確認しましょう。
研究結果に潜む落とし穴とチェックポイント
「最新の研究で〇〇に効果があると判明した」といった情報は魅力的ですが、研究結果の信頼性は、その研究の質によって大きく異なります。以下の点を踏まえて、研究結果を評価することが大切です。
- 研究の種類を確認する: 研究には様々な種類があります。
- 動物実験や細胞レベルの研究: 人間での効果が証明されたわけではありません。
- 観察研究: 特定の集団を観察して関連性を見つける研究です(例:「コーヒーを飲む人は病気になりにくい傾向がある」)。原因と結果(因果関係)を直接証明するものではなく、他の要因が影響している可能性(交絡因子)を考慮する必要があります。
- 介入研究(臨床試験): 特定の介入(薬の投与、食事の変更など)を行ったグループと行わないグループを比較する研究です。この中でも、対象者を無作為に割り付け、比較対象グループが存在し、評価者が結果を知らされないように配慮された「ランダム化比較試験(RCT)」は、比較的信頼性が高いとされています。 掲載されている情報が、どのような研究に基づいているかを確認しましょう。
- 研究の規模を確認する: 対象となった人数は十分に多いですか。少人数の研究結果は、偶然による偏りである可能性が高まります。
- 研究の資金源や所属機関を確認する: 研究が特定の企業や団体から資金提供を受けていたり、特定の利益と関係のある機関で行われていたりする場合、結果の解釈にバイアスがかかる可能性がないか慎重に検討する必要があります。
- 発表場所を確認する: その研究結果は、専門家による査読(ピアレビュー)を受けた学術雑誌(論文)として正式に発表されていますか。あるいは、商業目的のウェブサイトや個人のブログなどで一方的に発表されているだけですか。査読付き論文として発表されているかどうかが、信頼性を判断する一つの目安になります。
- 結果の解釈は妥当か確認する: 研究で示された「関連性」が、安易に「原因と結果(因果関係)」として語られていませんか。「〇〇をする人は××になりやすい」という関連性があっても、それは必ずしも「〇〇が××の原因である」とは限りません。
- 他の研究でも同様の結果が得られているか確認する: 一つの研究結果だけで結論を出すのは危険です。複数の、質の高い研究で繰り返し同様の結果が得られているかどうかが重要です。
信頼できる情報源を活用する
健康情報における統計データや研究結果の信頼性を判断するためには、普段から信頼できる情報源を活用する習慣を持つことが非常に有効です。
- 公的機関のウェブサイト: 厚生労働省、国立感染症研究所、国立がん研究センターなどのウェブサイトは、信頼できる情報を提供しています。
- 専門家団体や学会のウェブサイト: 日本医師会、各専門分野の学会(例:日本循環器学会、日本糖尿病学会など)は、専門家による正確な情報を発信しています。
- 大学や研究機関のウェブサイト: 各大学や研究機関の公式な発表を確認することができます。
- 医学系論文データベース: PubMedやCiNiiなどで、専門家による査読付きの論文を検索することができます。ただし、論文の読み解きには専門知識が必要な場合があります。
これらの情報源は、情報が公開されるまでに一定の手順(査読、検証など)を経ているため、比較的信頼性が高いと言えます。
誤った情報を他者に伝える際の注意点
もし、家族や友人から統計データや研究結果を根拠にした誤った健康情報について尋ねられた場合、頭ごなしに否定するのではなく、以下の点を心がけると良いでしょう。
- まずは相手の話に耳を傾ける: 相手がなぜその情報を信じているのか、どのような不安や期待を持っているのかを理解しようと努めます。
- 感情的にならない: 事実に基づいて、落ち着いて説明します。
- 根拠を具体的に示す: なぜその情報が信頼できない可能性が高いのか、上で述べたようなチェックポイント(出典元、研究の種類など)を挙げながら、分かりやすく説明します。可能であれば、信頼できる情報源から得た正確な情報を提示します。
- 相手の知識レベルに合わせて言葉を選ぶ: 専門用語は避け、平易な言葉で丁寧に説明します。複雑な内容は、簡単な例えを使うのも有効です。
- 情報の不確かさや限界にも言及する: 全ての情報が100%確実ではないこと、科学も常に進歩していることを伝え、完璧な答えがない場合もあることを理解してもらいます。
まとめ
インターネット上の健康情報に引用される統計データや研究結果は、一見信頼できるように見えますが、その内容を鵜呑みにせず、批判的な視点を持って確認することが重要です。この記事で述べたチェックポイント(出典元、定義、比較対象、絶対数・相対数、研究の種類、規模、資金源、発表場所など)を参考に、情報の真偽を注意深く見分けてください。
また、信頼できる情報源を日頃から活用し、正しい知識を身につけることが、誤った情報に惑わされないための最も効果的な方法です。情報を判断するスキルを高め、正確な健康知識を他者に伝える手助けとなることを願っています。