健康情報の「最新」を冷静に見極める視点
インターネットやメディアでは、「最新の研究で〇〇が判明!」といった健康情報が日々発信されています。新しい知見は大変魅力的ですが、これらの情報すべてが確定的な事実であったり、私たちの日々の健康管理に直ちに役立つものであったりするわけではありません。特に、研究段階の知見が誤解を招く形で広まるケースも少なくありません。
健康に関する「最新情報」に接した際に、その真偽を冷静に見極め、信頼できる情報を選び取るための視点とチェックポイントについて解説します。
「最新研究」に潜む誤情報のパターン
「最新の研究で判明した」とされる健康情報には、いくつかの典型的な誤情報に繋がりやすいパターンが見られます。これらを理解しておくことは、情報の真偽を見分ける上で役立ちます。
- 研究段階の情報を確定事実として扱う: まだ予備的な段階であったり、小規模な研究であったりする結果が、あたかも医学的に確定した事実であるかのように報道されることがあります。
- 動物実験や細胞実験の結果を人体に当てはめる: 動物や細胞レベルでの実験結果は、人間にも同じ効果やメカニズムがあるとは限りません。しかし、これが人間に直接応用できるかのように誇張されることがあります。
- 限られた条件下での結果を一般化する: 特定の疾患を持つ集団や特定の生活習慣を持つ人々を対象とした研究結果が、全ての人に当てはまるかのように解釈されることがあります。
- 相関関係を因果関係と混同する: ある要素と別の要素に関連性(相関)が見られたとしても、それが直接的な原因(因果関係)であるとは限りません。しかし、「〇〇を摂取すると△△になる」のように、原因と結果であるかのように誤って伝えられることがあります。
- 査読(ピアレビュー)を経ていない情報: 学術論文は通常、他の専門家による査読を経て初めてその信頼性が一定程度保証されます。査読前のプレプリントや、学会発表のみの段階の情報が、確定的な成果として広まることがあります。
「最新情報」の真偽を見分けるチェックポイント
では、こうした誤情報に惑わされず、「最新情報」の真偽を冷静に見極めるためには、どのような点に注目すれば良いでしょうか。
1. 情報源の信頼性を確認する
最も基本的ながら重要なステップです。その「最新情報」は、誰が、どのような媒体で発信していますか。
- 公的機関や信頼できる研究機関か: 国の厚生労働省、国立研究機関(例: 国立がん研究センター、国立循環器病研究センター)、大学の研究室など、公共性や専門性の高い機関からの情報はその信頼性が高い傾向にあります。
- 専門家団体や学会か: 特定の疾患や分野の専門家が集まる学会や専門家団体が発信する情報は、その分野の知見が集約されており信頼できます。
- 営利企業や特定の製品・サービス提供者か: 特定の製品やサービスを販売している企業からの情報は、自社に有利な情報を強調する可能性があるため、特に注意が必要です。
- 匿名の情報や個人ブログか: 情報の発信者が不明確であったり、個人の経験談や意見に基づいていたりする情報は、客観性や科学的根拠が不明なため、そのまま鵜呑みにすることは避けるべきです。
2. 情報の「段階」や「質」を見極める
その情報が示す研究が、どの段階にあるのか、どのような性質の研究なのかを確認します。
- 「可能性」「示唆」「発見」といった言葉に注目: 記事中で「〇〇の可能性がある」「△△が示唆された」「□□が発見された」といった表現が使われている場合、それはまだ確定的な結論ではなく、今後の研究で検証が必要な段階であることを示しています。一方、「〇〇が証明された」「△△により□□病が完治する」のような断定的な表現には注意が必要です。
- 研究の種類を確認する:
- 動物実験や細胞実験:基礎研究段階であり、人間にそのまま当てはまるかは不明です。
- 観察研究(コホート研究、症例対照研究など):特定の集団を観察し、要因と結果の関連性を見出す研究ですが、必ずしも因果関係を示すわけではありません。交絡因子(結果に影響を与える他の要因)の影響も考慮が必要です。
- 介入研究(ランダム化比較試験など):参加者を複数のグループに分け、一方に特定の介入(治療法や食品の摂取など)を行い、効果を比較する研究です。倫理的な問題などで実施できない場合もありますが、特定の介入の有効性を検証する上で、現時点では最も信頼性が高いとされる研究デザインの一つです。どのような研究デザインに基づいているかを確認しましょう。
- 研究の規模と期間: 参加者数が非常に少なかったり、観察期間が極めて短かったりする研究結果は、再現性や普遍性に乏しい可能性があります。
- 原著論文(一次情報)の有無: 可能であれば、報道や解説記事だけでなく、根拠となっている学術論文(アブストラクトだけでも良い)にアクセスしてみましょう。論文のアブストラクトを読むことで、研究の目的、方法、結果、結論、そして研究者自身が述べている限界などを直接確認できます。
3. 他の情報源と照合する
一つの情報源からの情報だけで判断せず、複数の信頼できる情報源にあたって、同じような情報が報告されているかを確認します。特定の情報源だけが主張している内容は、客観性や信頼性に欠ける可能性があります。信頼性の高い複数の情報源(異なる国の公的機関、複数の専門学会など)で共通して述べられている内容は、より確実性が高いと考えられます。
誤った情報を他者に説明する際のポイント
もしあなたが「最新の研究で〇〇が体に良いらしいよ」といった情報について質問を受けたり、誤った情報に基づいた言動を見聞きしたりした場合、どのように対応するのが良いでしょうか。
- 感情的にならず、落ち着いて対応する: 相手を否定するような態度ではなく、「それは興味深い情報ですね」といったように、一旦受け止める姿勢を示します。
- 不確実性を含めて正確に伝える: 「その研究は確かに発表されていますが、まだ研究段階のようですね」「動物実験の段階で、人間への効果はまだ分かっていません」など、情報の不確実性や限界を具体的に伝えます。
- 信頼できる情報源を示す: 「現時点では、厚生労働省のホームページでは〇〇についてこのように説明されています」「〇〇病については、〇〇学会のガイドラインで△△が推奨されています」のように、信頼できる情報源に基づいた情報を提供します。
- 断定的な表現を避ける: 「それは完全に間違っています!」のような強い否定は避け、「現時点では、科学的な根拠は十分ではないと考えられています」「今後の研究で変わる可能性もありますが、今のところ最も確かな情報は〇〇です」といった、より丁寧で客観的な表現を使います。
- 不安を煽らない: 不確かな情報に対して過度な不安を抱いているようであれば、「心配しすぎる必要はありません」「何かあれば、かかりつけの医師に相談してみるのが一番安心できますよ」といった言葉で安心感を与えることも大切です。
まとめ
インターネット上には、「最新研究」を根拠とする様々な健康情報があふれています。しかし、「最新」という言葉に必ずしも高い信頼性が伴うわけではありません。その情報がどのような段階の研究に基づくものなのか、情報源は信頼できるのか、他の情報源と照合するとどうなるのか、といった視点を持つことが、誤情報を見抜き、本当に役立つ情報を選び取るために不可欠です。
今回ご紹介したチェックポイントを活用し、情報の質を冷静に見極める習慣を身につけることは、あなた自身の健康を守るだけでなく、周囲の人々が誤った情報に惑わされないようサポートするためにも役立つはずです。情報リテラシーを高めることこそが、現代社会において自身と大切な人々を守る重要なスキルと言えるでしょう。